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2015年12月15日火曜日

書評 『安売り王一代-私の「ドン・キホーテ」人生-』(安田隆夫、文春新書、2015)-「逆張り経営」の創業経営者が語る赤裸々な自伝


『安売り王一代-私の「ドン・キホーテ」人生-』(安田隆夫、文春新書、2015)を一気読みした。この本は面白い。一気読みさせるだけの熱がある。

「ドンキ」については、あえて説明する必要はあるいまい。著者は、そのドンキを一から立ち上げて現在に至るまで成功させた創業経営者である。

「ドンキ」を貫いてきたのは、一言で言えば「逆張り」。流通業の常識を知らない、無手勝流の素人ゆえ強みと弱み、成功と失敗。まさに波乱万丈の一代記である。

一から立ち上げた創業経営者であるからこそ隅々まで熟知しているのだが、みずからの人生の赤裸々な述懐には、同時に自らを突き放してみることのできる知性も感じさせる。

みずから「内圧」の強いと語る人による人生論として読んでも面白いのではないかと思う。

おすすめの一冊。






目次

はじめに 若者よ、「はらわた」を振り絞れ!
第1章 絶対に起業してみせる
第2章 ドン・キホーテ誕生
第3章 禍福はあざなえる縄の如し
第4章 ビジョナリーカンパニーへの挑戦
第5章 不可能を可能にする安田流「逆張り発想法」
終章 波乱万丈のドン・キホーテ人生に感謝


著者プロフィール

安田隆夫(やすだ・たかお)
1949年岐阜県大垣市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、不動産会社に就職するも入社10カ月後に倒産。以降、長い無頼と放浪の時代を過ごす。78年、東京・杉並区にわずか18坪のディスカウントショップ「泥棒市場」を開店。深夜営業でヒットし成功を収めるが、5年で売却し、バッタ屋「リーダー」を設立。これも大きな利益を上げるが、小売業への再参入を決意し、89年に「ドン・キホーテ」1号店を東京・府中に開店。幾多の失敗や苦難を乗り越えながら急成長を続け、96年に株式店頭公開、98年東証2部上場、2000年東証1部上場。2015年6月にドンキホーテホールディングス代表取締役会長兼CEOを退任。現在は、ドン・キホーテグループ創業会長兼最高顧問(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<ブログ内関連記事>

書評 『道なき道を行け』(藤田浩之、小学館、2013)-アメリカで「仁義と理念」で研究開発型製造業を経営する骨太の経営者からの熱いメッセージ

書評 『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)-ビジネスモデル×哲学(理念)を参入障壁にブルーオーシャンをつくりだす

書評 『「できません」と云うな-オムロン創業者 立石一真-』(湯谷昇羊、新潮文庫、2011 単行本初版 2008)-技術によって社会を変革するといういうことはどういうことか?

書評 『不格好経営-チームDeNAの挑戦-』(南場智子、日本経済新聞出版社、2013)-失敗体験にこそ「学び」のエッセンスが集約されている

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!




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2015年11月27日金曜日

書評 『もしもあなたが「最高経営責任者」ならばどうするか? vol.1』(ビジネス・ブレークスルー大学総合研究所、大前研一=監修、Next Publishing、2015)-現在進行形の課題を CEO の立場に立って考え抜く


本書は、大前研一氏がみずから主宰するネット上のビジネスブレークスルー大学で実践してきたケーススタディの総集編の第一巻として出版されたものだ。

取り上げられているのは、The Coca-Cola Company、ローソン、NTT、UBER、任天堂、東京ガス、沖縄県、イオングループである。米国のベンチャーのUBER(ウーバー)と沖縄県以外は、ビジネスパーソンなら誰もが知っている有名企業である。

「もし自分がその企業の最高経営責任者であったらなら・・」という想定は、評論家ではなく、当事者として、責任者として、自分ならこの状況はこのように整理して、このように構想を練って、その構想を実現するために動くというサイクルを「頭で汗をかく」ことによって実行することを意味している。

だが本書掲載のケースはいずれも、公開情報にもとづいて作成されているため、どうしても情報量の多い大企業が中心である。こういった大企業の CEO となることは、残念ながら、たいていのビジネスパーソンにとっては、確率的にみてきわめて小さなものである。とはいえ、こういう思考訓練もたまにはいいかもしれない。

「解を見つけることが目的ではない、考えに考えた末に「自分なりの結論を出す」ことが重要なのであり、その積み重ねによって問題解決力が磨かれてゆくのである」、と大前氏は説く。

とはいいながらも、おそらく多くの人はすぐに解答を見てしまいたいという誘惑に打ち勝てないのではないだろうか? 本書でいえば「まとめ」に提示された戦略案である。だが、解答をみてから、その解答にあてはまるものを問題文から発見するという受験秀才型の方法は、ケーススタディ型の学習においては無用どころか有害である。

なぜなら、ケーススタディはあくまでも素材であり、それ自体が解答ではないからだ。素材をどう解釈して自分なりの解答を出したとしても、そもそもビジネスには唯一絶対の正解があるわけではないので、じっさいにyってみない限り、自分の考えが正しいかどうかを検証することが難しいのだ。したがって、ケーススタディほど自習に不向きなものはない。

だからこそ、ハーバード・ビジネススクールを筆頭に、ケーススタディはあくまでもグループ・ディスカッションとクラス・パティシペーション(=授業への積極的な参加と発言による貢献)が求めているのである。自分のアタマで考え抜いたことも、他者による解釈を聞くことによって修正を余儀なくされるのである。そしてそのうえで、さらに自分の考えを磨きぬいて授業に臨む。これがあるべきケーススタディ型授業である。

だが、そうはいっても、なかなか理想的なケーススタディの授業に参加することは難しい。しかも、大半のビジネススクールでは過去のケースが取り上げられている。この現状に意義を唱え、リアルタイムで進行するビジネスそのものを題材にしたケーススタディの授業が重要だと主張してきたのが大前研一氏である。

また本書は、NextPublishing によるオンデマンド(ペーパーバック)版である。リアルタイム性ということであれば、本書出版時点で、すでにすべてのケースがリアルタイムではない。それぞれのケースについて、読者はケース作成後の情報をすでに知りうる立場にあるからだ。

その意味では、本書に収録されたケースも、完全な意味ではリアルタイムに進行するものではない。それでも過去の干からびた事例の復習とは、まったく異なるものであり、おおいに意義はある。

本書のケーススタディでは内部資源についての情報がないので、あくまでも事業戦略にかんするものだろ認識したうえで取り組んでみるべきだろう。たとえすばらしい戦略であっても、絵に描いた餅に終わってしまうことが多々あるのは、よくあることである。思考訓練として取り組む教材と捉えるべきである。





目 次
はじめに
本書について
本書収録ケーススタディについて
CaseStudy1 あなたが The Coca-Cola CompanyのCEOならばどうするか?
CaseStudy2 あなたが ローソンの社長ならばどうするか?
CaseStudy3 あなたが NTTの社長ならばどうするか?
CaseStudy4 あなたが UBERのCEOならばどうするか?
CaseStudy5 あなたが 任天堂の社長ならばどうするか?
CaseStudy6 あなたが 東京ガスの社長ならばどうするか?
CaseStudy7 あなたが 沖縄県知事ならばどうするか?
CaseStudy8 あなたが イオングループCEOならばどうするか?
書籍特典
ビジネス・ブレークスルー大学について


<関連サイト>

ビジネスブレークスルー大学の教育メソッド Real Time Online Case Study (略称RTOCS®)について
・・「経営者としての問題解決力を向上させる教育メソッド Real Time Online Case Study (略称RTOCS®)とは、国内外のリーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者の視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛える教育メソッド」



<ブログ内関連記事>

What if ~ ? から始まる論理的思考の「型」を身につけ、そして自分なりの「型」をつくること-『慧眼-問題を解決する思考-』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2010)

慶応大学ビジネススクール 高木晴夫教授の「白熱教室」(NHK・ETV)

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)

put yourself in their shoes 「相手の立場になって考える」



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2015年11月15日日曜日

書評 『仁義なき宅配-ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン-』(小学館、2015)-宅配便の「送料無料」は持続可能なビジネスモデルか?



物流を専門分野にするジャーナリスト横田増生氏の新作『仁義なき宅配-ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン-』(小学館、2015)を読んだ。

この本はじつに面白い。物流(=ロジスティクス)ほどリアルビジネスにとって重要な機能であるのにかかわらず、当事者を除けば一般的な関心が低く、そのためあまり書かれることのない分野はほかにないからだ。

これまで著者が発表してきた『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』や『ユニクロ帝国の光と影』は、物流そのものではなく、ビジネスモデルのなかに物流を組み込んでいる企業であった。だが、最新刊の『仁義なき宅配』においては副題にあるとおり、業界二強のヤマトと佐川急便、そして復活してきた日本郵便に焦点をあてて深堀りしている。

この本を読むと、アマゾンを代表とする「送料無料」モデルの業者が求める過酷な競争条件が運賃低下をもたらし、そのしわ寄せが現場に集中していることが手に取るようにわかる。運賃の低価格化は、現場労働者の賃金低下をもたらすのである。宅配便のドライバーや、配送センターの仕分け作業員の現場が疲弊する理由はここにある。

このままでは「宅配便」という社会インフラが持続可能でなくなるばかりか、「送料無料」を前提にしたビジネスモデルが見直しを図られることが間違いない。

この本に書かれている実態を知れば、誰もがそう思うのではないか? 著者自身、ヤマトの「羽田クロノゲート」にアルバイトとして1ヶ月間夜勤で働いている。企業礼賛を目的とした提灯本とはまったく異なる結論が、この潜入取材から導き出されている。

ビジネスパーソンだけでなく、宅配便を利用する側の消費者にとっても、読むに値する内容であるといってよいだろう。




目 次

まえがき
第1章 迫り来る "宅配ビッグバン"
第2章 佐川「下請けドライバー」同乗ルポ
第3章 「風雲児」佐川が成り上がるまで
第4章 ヤマトはいかにして「覇者」となったか
第5章 日本郵便「逆転の独り勝ち」の真相
第6章 宅配ドライバーの過労ブルース
第7章 ヤマト「羽田クロノゲート」潜入記
終章 宅配に "送料無料" はあり得ない
あとがき


著者プロフィール

横田増生(よこた・ますお)

1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め経済の水脈とも言える物流から企業を調査・評価するという技術と視点を身につけた。1999年10月にフリーランスに。2005年に発表した『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』ではアマゾンの物流センターで半年間実際に働き、ウェブ時代における労働の疎外を活写して話題になった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





<関連サイト>

著者は語る(週刊文春) 物流業界の光と影 『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン』 (横田増生 著)


<ブログ内関連記事>

書評 『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生、文藝春秋社、2011)-ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション

書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・

『JAL崩壊-ある客室乗務員の告白-』(日本航空・グループ2010、文春新書、2010) は、「失敗学」の観点から「反面教師」として読むべき内容の本




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2015年9月26日土曜日

メロンパンをクッキーとして食べる-欲しいものをさらにミニチュア化するという発想


差し入れで「小さなメロンパンクッキー」というお菓子をいただきました(写真)。

はじめて食べてみたわけですが、これがじつにうまい。メロンパンの皮そのもの。

山崎パンの「メロンパンの皮焼いちゃいました」がヒット商品となっていますが、たしかに、いわゆるメロンパンをメロンパンたらしめているのは、あくまでも皮であって中身の白いパンではないですからね。

メロンパンをミニサイズにして、しかもメロンパンの皮という欲しいものだけを、さらに食べきりの一口サイズで味わうことができるという、ミニチュア化するという発想。この着眼点はかなりいいですね。

 お土産として持参すれば、喜ばれるのではないかな。岡山市のカバヤ食品の製品です。





<関連サイト>

「小さなメロンパンクッキー」(カバヤ食品)

「メロンパンの皮焼いちゃいました」(山崎パン)



<ブログ内関連記事>

「一回使い切り」というコンセプト-業務用のポッカレモン・ミニはじつにいい!

東大の「体力」? 「体力」の東大?-商品名は「体力式アミノ酸ゼリー」という「東大サプリメント」





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2015年8月30日日曜日

書評 『プロフェッショナル シンキング-未来を見通す思考力-(BBT大学シリーズ) 』(宇田左近・平野敦士 カール・菅野誠二、大前研一=監修、ビジネス・ブレークスルー大学=編、東洋経済新報社、2015)-若手ビジネスパーソンが不透明な時代を生き抜くための思考法入門書


『プロフェッショナル シンキング(BBT大学シリーズ) 』(大前研一=監修、ビジネス・ブレークスルー大学=編、宇田左近・平野敦士 カール・菅野誠二、東洋経済新報社、2015)は、大前研一氏が創設したネット大学BBTの教授陣が執筆したビジネス書です。

帯には、「すべても日本人必読!」と書いてありますが、じっさいは20歳代のビジネスパーソン向けというべきでしょう。ある意味では「ビジネス教養書」とでもいうべき内容の本です。

この本の使い方は、まず最初に「目次」を読んでから、誰が執筆しているのか、執筆者のバックグラウンドは何か、得意分野は何かを把握した上で、順番にとらわれることなく読んでみるのがいいでしょう。これは、すべてを自分のアタマで考えるクセを身に着けるのは必要なことです。

第3章から5章 「市場の未来」を見通す思考法について、第5章の「プラットフォーム戦略」については、これを読めば大雑把なところは把握できるので読んでおきたいところです。フェイスブックやアップル、グーグルなど、成功している米国企業にはプラットフォーム戦略が活かされているのに、日本の大企業には成功例が少ないのか考えてみるキッカケになるでしょう。

全体的に外資系コンサル特有の英語由来のカタカナ語が多すぎて、ややうっとおしいことは否定できません。不必要なまでのカタカナ語は、じっさいの日本のビジネスシーンではつかわないほうが賢明であることは言うまでもありません。ただし、相手を煙に巻きたい場合はその限りではありませんが・・・。

第6章から第8章のタイトルは、正直いって抽象的すぎて、なんだかとっつきにくい印象を受けるので敬遠したのは否定できません。とはいえ、書いてある内容は現実に立脚していて興味深いし、著者自身もかかわった事例もあり、具体例を読めばアタマにすっきりと入りやすい。なんだ、そういうことを言っているのか、と。それは重要な切り口だな、と。

若手ビジネスパーソンが本書の内容をそのまま自分のビジネスのなかで使いこなすのは、なかなか難しいのではないかという印象を受けます。

そのためには、各章に設定されている「読者への問い」を読み飛ばさずに、真剣に考え抜いてみる必要があるでしょう。それが仕事を「他人ごと」ではなく、「自分ごと」として捉えるための必須の毎度セットでありスキルというべきでしょう。自分のアタマで考え、自分のコトバで語れるところまでいけば、その時点で自分の「アタマの引き出し」となるのです。

若手のビジネスパーソンが、先行きの不透明な移行期の世界を生き抜いていくうえで必要な思考法への入門書として推奨できる本です。


PS この書評は、レビュープラスさまからの献本をもとに執筆されました。





目 次

刊行に寄せて(大前研一)
はじめに(宇田左近)
  
第1章 準備運動-「思考逃避」のもたらす危機(宇田左近)
第2章 思考逃避がもたらす固定観念を打破する(宇田左近)
  
第3章 大局観を持つ-市場の未来を見通す思考力1(平野敦士カール)
第4章 ある程度予測できる未来を読む-市場の未来を見通す思考力2(平野敦士カール)
第5章 新しい未来を創り出す-市場の未来を見通す思考力3(平野敦士カール)
  
第6章 事業構造と顧客交点アプローチ-顧客の未来と未来の顧客を見通す思考力1(菅野誠二)
第7章 時間軸と顧客交点アプローチ-顧客の未来と未来の顧客を見通す思考力2(菅野誠二)
第8章 顧客個人の内面と外部交点アプローチ-顧客の未来と未来の顧客を見通す思考力3(菅野誠二)
  
第9章 未知の問題解決に挑戦するための集団IQ(宇田左近)
謝辞



<ブログ内関連記事>






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2015年7月20日月曜日

「パキスタン鉢」という製品がある-パキスタンが好印象で受け取られる園芸マーケットの世界


うちの近所のホームセンターの園芸部門で「パキスタン鉢」というものを見つけました。
   
現在の住居には庭がないので残念ながら園芸ができませんが、子どものときから好きなので園芸コーナーはときどき見ています。四季折々の草花や庭木の苗、野菜の苗を見るのはじつに楽しいですね。
   
「パキスタン鉢」というのは、大型の素焼きの鉢
でもなんでパキスタンなんだろう?
  
調べてみたら、正真正銘のメイド・イン・パキスタンのようです。パキスタンのハンドメイドのテラコッタの鉢。わざわざパキスタンから輸入しているのか!
  
パキスタンというと核開発だとか、タリバンだとか、あまりかんばしくないイメージが日本でも定着してしまっていますが、あえてパキスタンを名称に入れても売れるというのは、園芸愛好家にとっては「ブランド」となっているからだろう。

パキスタンの人件費が日本より安いのは当たり前ですが、まさかそれだけの理由で、わざわざネガティブなイメージのついた「パキスタン」を商品名に入れるはずがありませんね。

一般的な認識と、限定されたマーケットにおける認識、この二つはかならずしも一致しないようです。「パキスタン鉢」は、そんな事例の一つといっていいでしょう。
  
パキスタン鉢が、日本とパキスタン友好のシンボルの一つになるといいですね。



<関連サイト>

ジョイフルホンダで取り扱っている「パキスタン鉢」


<ブログ内関連記事>

「微笑み」は素焼き人形(テラコッタ)にあり-タイのあれこれ(番外編)
・・タイの北部チェンマイは素焼き人形のメッカ

電気をつかわないシンプルな機械(マシン)は美しい-手動式ポンプをひさびさに発見して思うこと
・・昭和遺産!

千葉大学園芸学部にはイタリア式庭園とフランス式庭園がある-千葉大松戸キャンパスをはじめて訪問(2014年11月9日)
・・日本で唯一の園芸学部は、西洋式庭園の技術は教えても、日本庭園については教えていない


■製品ブランド

製品ブランドの転売-ヴィックス・ヴェポラップの持ち主は変わり続ける
・・正露丸の場合は、ブランドの担い手としての所有者に変更はありませんが、ヴェポラッブは二転三転。ブランドの生命力は会社の生命よりも長い(!)ということがある

1783年誕生の英国の炭酸飲料シュウェップス(Schweppes)は、いま日本コカコーラが販売している

「正露丸」は超ロングセラーの製品ブランドだ!

「ポルシェのトラクター」 を見たことがありますか?

ゼスプリ(Zespri)というニュージーランドのキウイフルーツの統一ブランド-「ブランド連想」について

「泉屋のクッキー」-老舗(ブランド)には歴史(ヒストリー)=物語(ストーリー)がある

サイダーはサイダーではない!?-外国製品が日本化すると・・・




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2015年7月1日水曜日

書評 『セッター思考-人と人をつなぐ技術を磨く-』(竹下佳江、PHP新書、2015)-バレーボールの「セッター」というポジションが生み出すあらたなリーダー像


    
「なでしこ」がワールドカップ2015で快進撃中ですが、女子サッカーではなく女子バレーボールの話題で。
  
『セッター思考-人と人をつなぐ技術を磨く-』(竹下佳江、PHP新書、2015)という本が新刊書として出版されています。日本女子バレーボール復活(!)の原動力の一人となった「世界最小で最強のセッター」で日本代表チームの元キャプテンによるもの。
   
世界的にみれば190cm台がはザラにいる世界で、159cm という身長はじつに小さいといわざるをえません。だがその環境のなか、身長が低いというハンディキャップがあるからこそアタマを使い、猛練習のずえ勝ち取ってきた日本代表チームのセッターというポジション

アタッカーにトスをあげるセッターは、いわば「つなぎ目」の役割アタッカーのような華やかさはありませんが、チームの司令塔的存在です。そのセッターも世界的だけでなく、日本でも高身長の選手が多いのです。
  
女子バレーボールというと、50年前の東京オリンピックでは「オレについてこい」という大松監督のスパルタ主義で「東洋の魔女」たちが世界の頂点に立ったのでありましたが、21世紀の現在、もはやそんなスタイルでは「誰もついてこない」ことは言うまでもありません。

そうでなくても、「オレがオレが」(・・女子選手の場合はオレではないでしょうが)という意識が強いのがアスリートというもの。それはチームスポーツであってもポジション争いがかかわる以上、当然といえば当然でしょう。

しかし、バレーボールの試合はチームでやるものであって、個人競技のように個人の力だけでできるものではありません。「個」の集まりである「チーム」全体の息があって、はじめて最大のパワーが発揮できるものです。そのためにはコミュニケーションを活発化させ、つねに観察を怠らないことがリーダーには求められます。

この本では、とくに女子選手のマネジメントについて体験から多くのことが語られていますが、男子についても、かなりの程度あてはまるのではないかな、と思います。男子だって人間である以上、ほんとは繊細なのですから。このことに気づくかどうかが、最高のパフォーマンスを発揮できるチームづくりのために必要なのではないでしょうか。

高校卒業後は大学に進学せず実業団に所属し、その後は日本でのプロ契約第一号となった著者が語る「セッター思考」は、あたらしい時代のリーダー像であり、リーダーシップの一つのモデルとなることでしょう。 

随所にビジネスでの応用の可能性について言及していることもあり、ビジネス書として読んでも面白いのではないでしょうか。もちろん、チームづくりに応用できるかどうかは、読者次第ではありますが。






<ブログ内関連記事>

書評 『女子社員マネジメントの教科書-スタッフ・部下のやる気と自立を促す45の処方箋-』(田島弓子、ダイヤモンド社、2012)-価値観の異なる人材をいかに戦力化するか
・・ダイバーシティとは「価値観の異なる」人の集まり

書評 『なでしこ力(ぢから)-さあ、一緒に世界一になろう!-』(佐々木則夫、講談社、2011)-「上から目線」でも「下から目線」でもない「横から目線」の重要性

書評 『ビジネススキル・イノベーション-時間×思考×直感 67のパワフルな技術-』(横田尚哉、プレジデント社、2012)-ビジネススキルは流行を追っかけるのではなく、本質をおさえてイノベートせよ! 
・・個人スキルのなかには、チームをマネジメントするスキルも含まれる





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2015年6月29日月曜日

1783年誕生の英国の炭酸飲料シュウェップス(Schweppes)は、いま日本コカコーラが販売している


今年の夏は暑そうだ。すでに5月から夏日が始まっている。のどが渇くので炭酸水でのどを刺激したいと思うのだが、コーク(=コカコーラ)は飲みたくない。

三ツ矢サイダーなどの選択肢はあるのだが、自販機で目についたシュウェップスのシトラスのペットボトル(130円)を飲んでみたらうまかった。これは大正解だった。シトラスは、柑橘系天然果汁入り炭酸水である。シュウェップスは、1783年創業の英国の飲料ブランドだ。

シュウェップス(Schweppes)についてちょっと調べてみた。正確性については疑問があるが、とりあえず調べるには、まずは wikipedia だ。

18世紀末にドイツ人の時計技師であり発明家のヨハン・ヤコブ・シュヴェッペ(Johann Jacob Schweppe)が炭酸ミネラルウォーターを製造する機械を開発し、1783年にジュネーヴでシュウェップス社を創業。その後事業拡大のため会社をロンドンに移転。 主な商品としては、ジンジャーエール(1870年)、ビター・レモン(1957年)、トニック・ウォーター(最古の清涼飲料水とも言われる、1771年)がある。

なるほど。英国が発祥の地だが、Schweppes という英語っぽくないつづりは、やはりドイツ人の名前であったわけだ。しかも企業ブランドとして出発したシュウェップスは、いまでは製品ブランドとなっている。

じつは、いま「シュウェップス」で Google検索をかけると、でてくるのは シュウェップス: 日本コカ・コーラ株式会社 というサイトである。

コカコーラを飲みたくないので、ほかの炭酸を見つけた(!)と思ったら、じつは現在は日本コカコーラが販売する製品ブランドとなっていたというわけだ。おなじく wikipedia の記述から引用しておこう。

日本で最初にシュウェップスのライセンスを受けたのはアサヒビールで、1980年代にアサヒビールの清涼飲料ラインナップのひとつとして製造、発売されていた。1996年のアサヒ飲料発足後に伴うアサヒビールグループの事業再編により、1998年にUCC上島珈琲に販売権が移り、2000年11月からは日本コカ・コーラから販売されている。

なるほど、シュウェップスもまた、所有者が変わり続けているわけだ。現在は、アメリカのコカコーラの日本法人のもと、「イギリス育ちのこだわり炭酸シュウェップス」という宣伝プロモーションを行っている。現在は、「大人の爽快スパークリング」などのキャッチフレーズも使用されている。


(日本コカコーラのCMより)


そんなことはさておき、シュウェップスのシトラスはうまい! それ以来、のどが渇いたらシュウェップスを飲んでいるのだが、すべてのコカコーラの自販機にあるわけではない。自販機は、個々の自販機ごとに売れ筋が違うから販売アイテムも異なるのである。

わたしにとっての悩みの種の一つである。






<関連サイト>

シュウェップス公式サイト(英語)
・・Japan は選択肢のなかにない

Schweppes(シュウェップス) (日本コカコーラの公式サイト 日本語)
・・シュウェップス・ブランドの歴史も簡単に記されている


<ブログ内関連記事>

製品ブランドの転売-ヴィックス・ヴェポラップの持ち主は変わり続ける
・・正露丸の場合は、ブランドの担い手としての所有者に変更はありませんが、ヴェポラッブは二転三転。ブランドの生命力は会社の生命よりも長い(!)ということがある

ゼスプリ(Zespri)というニュージーランドのキウイフルーツの統一ブランド-「ブランド連想」について

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2015年4月23日木曜日

書評 『マクドナルドで学んだすごいアルバイト育成術』(鴨頭嘉人、新潮文庫、2015)-「仕事をつうじて成長する」、ということ


『マクドナルドで学んだすごいアルバイト育成術』(鴨頭嘉人、新潮文庫、2015)という本が面白いので、一気に読んでしまいました。
  
原本は2012年に出版された『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』。タイトルを改題して文庫化されたもの。文庫本にも、読むべきビジネス書があります。
  
この本の内容は一言でいえば、「仕事をつうじて成長する、ということ」の意味についてといってもいいでしょう。
   
アルバイトとして4年、社員として21年。合計25年のあいだ、マクドナルドの「現場」で働いて最優秀店長にまでなった著者の、「失敗をつうじて学んできた仕事と人生」
  
アルバイトであっても、自分自身が仕事の意味を理解したときスイッチが入り、「やらされ感」が消えてゆきます。その光景が目に浮かぶようなシーンの数々。
  
食品偽装問題でマクドナルド離れが激しいようですが、それは「現場」のオペレーションの問題ではなく「経営」の問題日本企業の強みが、いまもむかしも「現場」にあることをあらためて感じさせてくれる内容でもあります。
   
世の中全体の「サービス産業化」が加速している現在、アルバイトの人たちに気持ちよく働いてもらって、最高のパフォーマンスを引き出してもらうためには、自分自身を変えてゆくことが必要だということですね。人を変えるには、まずは自分が変わらなくてはならない。そう「気づく」ことが大事です。
  
大いに共感する内容なので、みなさんにも読むことをお奨めします。
  
  




目 次  

プロローグ サービス業は天使の仕事
第1章 マクドナルドのアルバイトは、なぜニコニコして働くのか
 1. 肩書きではなく、仕事の価値は自分が決める
 2. 逃げさえしなければ、できないことはない
 3. 本当の愛情は、必ず伝わる
 4. 最高の挨拶は、最高のリーダーシップを発揮する
 5. 限界を超えるチャレンジにこそ意味が見える
 6. 人生の歩み方は、自分自身で定める
 7. 相手の立場で考え伝えたことは、必ず成果につながる
第2章 社員の最高の報酬は、お客さまの笑顔
 8. 一生懸命は、やがて感謝の交換につながる
 9. 上司の仕事は、舞台監督のように演者を輝かせること
 10. 「報連相」には、たくさんの気づきが隠されている
 11. 仕事の本当の評価者は、上司ではなくお客さま
 12. 弱さは強さに変換できる
 13. 自分のために頑張ってもらえる人間になる
第3章 店長の仕事は、楽しい職場をつくること
 14. 失敗を生かして自らを変える
 15. 理想は共有すべきものである
 16. 働く価値の置き方で、人生が良い方向に向く
 17. 重要なのは問題の "根本" を解決すること
 18. 人は誰もが期待され、貢献したいと思っている
エピローグ サービス業で世界を変える
文庫本あとがき 「人は働くことで輝く」

著者プロフィール

鴨頭嘉人(かもがしら・よしひと)
1966(昭和41)年愛媛県生れ。県立今治西高校卒(在学時は野球部キャプテン)。大学入学のために上京した際にマクドナルドと出会い、アルバイトとして4年間、正社員として21年間、日本マクドナルド株式会社に勤める。1998(平成10)年、新規開店した店舗の店長として、お客様満足度全国1位、従業員満足度全国1位、セールス伸び率全国1位の「三冠」を達成し、「最優秀店長」に選ばれる。マクドナルド初の「グループ運営店長」やオペレーション・コンサルタント、本社人事部での採用担当などを経て独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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アルバイトのチームワーク

書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・

アルバイトをちょっと長めの「インターンシップ期間」と捉えてみよう

日体大の『集団行動』は、「自律型個人」と「自律型組織」のインタラクティブな関係を教えてくれる好例


仕事のホンネ

書評 『夢、死ね!-若者を殺す「自己実現」という嘘-』(中川淳一郎、星海社新書、2014)-「夢」とか「自己実現」などという空疎なコトバをクチにするのはやめることだ
・・自発性を悪用しないよう!


マクドナルド関連

深夜のマクドナルドは「社会インフラ」である!-これがほんとの「社会貢献」ではないか?

日米親善ベース歴史ツアー」に参加して米海軍横須賀基地内を見学してきた(2014年6月21日)-旧帝国海軍の「近代化遺産」と「日本におけるアメリカ」をさぐる
・・米軍基地内のマクドナルドについて

プラクティカルな観点から日本語に敏感になる-藤田田(ふじた・でん)の「マクド」・「ナルド」を見よ!

世の中には「雑学」なんて存在しない!-「雑学」の重要性について逆説的に考えてみる
・・藤田田の代表作『ユダヤの商法』に書かれている「雑学」の重要性から話を展開





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2015年3月30日月曜日

大塚家具という「上場企業」におけるガバナンスについて考えてみる-「資本と経営の分離」ということ


大塚家具のプロキシーファイト(=株主総会における議決権委任状争奪戦)でありますが、2015年3月27日の株主総会において、娘が父親に勝利したという結論になったことは、すでにみなさんもご存じのことでありましょう。
   
本来ならお固いはずの経営問題が、父娘対決という一般人にもわかりやすいワイドショーネタとなってしまってましたからね。
    
個別企業の内部問題についてコメントすることはするつもりはありませんが、問題の本質は、上場企業におけるコーポレート・ガバナンス(=企業統治)にあることが重要です。『会社四季報』の出版元である東洋経済新報がはやくからスクープを飛ばしていたのは、そのためでもあります。株価に影響がでますからね。
    
わたくしは同族企業が問題であるとはまったく考えておりません。世襲も問題とは勧化手降りません。

ただし、株式を公開していながら同族企業でありつづけることには問題があると考えます。たとえ非公開でもあっても企業は「社会の公器」でありますが、株式を市場で公開しているのであれば、「公器」としての性格はさらにつよく求められるのは言うまでもありません。
    
その昔、「ビジネスマン養成大学」(・・当時は女子学生比率はまだまだ低かった)に通っていた大学一年のとき、『経営史』の授業で徹底的にたたき込まれたのが、「資本と経営の分離」の重要性です。近代経営においては、資本を提供する株主とは別個に、専門経営者が必要となったという歴史的事実についてです。
   
上場企業の経営者には、同族であろうとなかろうと、プロの経営者であることが求められる。そしてその経営者を監視するのが株主であり、その株主による経営陣監視の執行機関が株主総会である。株主の立場から経営者を監視するのがコーポレート・ガバナンス(=企業統治)というものである、と。
  
日本でコーポレート・ガバナンスの重要性が浮上してきたのは1990年代に入ってからですので、それ以前の創業経営者のなかには、たとえ上場企業の社長であっても、この意味が感覚的にわからない人がいるのも否定できない事実です。それ以前は、株主ではなく融資元である金融機関が実質的にガバナンスの役割を果たしていましたが、直接金融の発達で上場企業においては銀行の役割が縮小してしまいました。
   
したがって、創業経営者で父親である大塚勝久氏と、コーポレート・ガバナンスのなんたるかを熟知している娘の大塚久美子氏とでは、たんなる親娘対立や世代間格差だけではない、本質論にかんする認識の違いがあるといっていいかもしれない。
   
わたしは株主ではありませんが、株主の立場からみれば今回の一連の騒動で傷ついたブランドを回復し、業績を成長軌道に乗せることを期待していると思います。ですから、これからが「本番」なわけですし、株主の期待を裏切らないことが求められるわけです。事業戦略の内容と実行の問題ですが、はたして IKEA と同じ土俵で戦えるのかどうか?
  
ちなみに大塚家具の大塚久美子社長は、学部は違いますが、わたしとは大学とは同窓の後輩にあたる人です。直接会ったことはないので、人となりまでは知りませんが、、「資本と経営の分離」の意味については、世代的にみてかなりはやくから意識していたとしても不思議ではないでしょう。
   
今後、どういう展開を見せるのか、ワイドショーネタとは違う観点から注視してきたたいと考えております。  






<関連記事>

大塚家具社長の大塚久美子氏のインタビュー記事が、大学の広報誌に掲載されてます。そういえばむかし読んだ記憶があったなあとネットで調べてみたらありました。 「個性は主張する One and Only One 株式会社クオリア・コンサルティング代表取締役/大塚久美子氏」(『HQ』Vol13)。いま10年くらい前の2006年(平成18年)年のものです)。ウェブ上で Pdf ファイルで公開されているので、ご関心のある人は、43ページ以降をご覧いただきたく。


<関連サイト>

大塚久美子社長・勝久前会長に経営学者が伝えたい4つのこと 同じ問題は、明日どの会社でも起こり得る (入山章栄、日経ビジネスオンライン、2015年3月30日)

ファミリービジネスで気づいた日本の“偏見”-見方を変えると、異なる風景が見えてくる (御立尚資、日経ビジネスオンライン、2014年4月14日)
・・ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の日本代表による記事。日本の大企業サラリーマン諸氏は、世襲が当たり前のファミリービジネス(同族企業)として偏見をもっている人も少なくないようだが、世界的にみればそれは非常識であることが理解できるだろう

大塚家具騒動で、一体誰が得をしたのか?  父と娘の争いから1年、騒動の本質が見えてきた (磯山友幸、日経ビジンスオンライン、2016年3月30日)


シリーズ 星野佳路と考えるファミリービジネス 

「家族経営」が日本を支えている (星野佳路、日経ビジネスオンライン、2014年2月13日)

後継者はどのように「生まれる」のか-日本交通の川鍋一朗社長との対談で考える (星野佳路、日経ビジネスオンライン、2014年2月20日)

社内の「予想以上」の状況を改革 日本交通の川鍋一朗社長との対談で考える(2) (星野佳路、日経ビジネスオンライン、2014年2月27日)
星野: ファミリービジネスを継いでいる若い経営者に聞くと、入ってからおとなしくなる人が意外なくらい多い。親の言うままにやっていては、「いつか変えてやろう」という気持ちもなくなります。後継者は最初からある程度リスクを取っても「変える気概」を持つべきです。そうでなければ、若い世代が入っても、新しいエネルギーになりません。
川鍋: 私のように3代目になると、創業者がつくったビジネスモデルの有効期限が切れているケースがあります。それだけに、ファミリーで培ったことを生かしながら、変革への強い意志を持って付加価値を追加することが必要になってきます。
星野: ファミリーで培ってきた強さに依存しているだけでは、事業を継ぐ立場として、責任を果たせません。大事なのはやはり、「自分の代で何を変えてやろうか」ということだと思います。そうした意識があれば環境をうまく生かせるし、世襲に対して、周りの納得感は高まります。変革マインドは大事だと思います。

同族経営の承継ではハードな世代交代を恐れてはいけない (星野佳路・星野リゾート代表、習慣ダイヤモンドオンライン、2015年12月28日)

(2016年3月30日 情報追加)





<ブログ内関連記事>

「世襲」という 「事業承継」 はけっして容易ではない-それは「権力」をめぐる「覚悟」と「納得」と「信頼」の問題だ!

書評 『跡取り娘の経営学 (NB online books)』(白河桃子、日経BP社、2008)-「跡取り娘」たちが背負う日本の中小企業の未来

書評 『ホッピーで HAPPY ! -ヤンチャ娘が跡取り社長になるまで-』(石渡美奈、文春文庫、2010 単行本初版 2007)

書評 『渋沢栄一 上下』(鹿島茂、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-19世紀フランスというキーワードで "日本資本主義の父" 渋沢栄一を読み解いた評伝

IKEA (イケア) で北欧ライフスタイル気分を楽しむ-デフレ時代の日本に定着したビジネスモデルか?
・・ライフスタイル・ビジネスの IKEA が日本で普及した現在、家具の小売りビジネスは?




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2015年3月27日金曜日

書評 『督促OL修行日記』(榎本まみ、文春文庫、2015)-つらい仕事も「修行」と捉えれば乗り切れる!


『督促OL修行日記』(榎本まみ、文春文庫、2015)という本が面白いので「一気読み」してしまいました。
     
この本でいう「督促」とは、債権回収のために、支払い延滞客に電話でする督促のことです。就職氷河期にやっと決まった信販会社で、新卒として最初に配属されたのが督促コールセンター。「花のOL」とはほど遠い世界ですが、会社組織ですから新人に配属先は選べません。
  
電話による督促は、対面ではなく、声だけがたよりのコミュニケーション。督促したからといって、そうすんなりと払ってくれるわけではないので、おおいに苦労するわけです。この本には、著者が体験した多種多様な事例がでてきますが、多重債務者や支払困難な顧客からは罵詈雑言をあびせられ、ほとんどクレーマーのような内容もきわめて多い世界であることがわかります。
  
この本の著者は、もともと気弱で、苦労もハンパではなかったようです。ですが、なんとかその世界でサバイバルできただけでなく、年間2,000億円の債権回収も可能にしたとのこと。そのノウハウとはいったいどんなものなのか? そのディテールが、具体的に書かれています。
  
仕事をつうじて成長するフツーの女性の物語であり、苦痛と思える仕事も、どうやったらそのなかでサバイバルできるかという仕事術にもなっています。クレーム対応の本でもあり、コミュニケーション下手で苦労している人にとっての実践的アドバイスが「督促OLのコミュ・テク!」としてまとめられています。
   
ビジネス書として売り出しているわけではないのに、つまらないビジネス書より、はるかに面白い! テレビドラマ化したら面白いのでは?  
   




目 次

01 ここは強制収容所?
02 "ブラック部署” の紅一点!
 督促OLのコミュ・テク! その1 約束日時は相手に言わせる
03 ストーカー疑惑と襲撃予告
 督促OLのコミュ・テク! その2 「おカネ返して!」と言わずにおカネを回収するテクニック
04 謎の奇病に襲われる…
 督促OLのコミュ・テク! その3 いきなり怒鳴られた時に相手に反撃する方法
05 自分の身は自分で守る
 督促OLのコミュ・テク! その4 厳しいことを言う時のツンデレ・クロージング
06 N本、大抜擢される
07 自尊心を埋める
 督促OLのコミュ・テク! その5 クレームには付箋モードで反撃
08 濃すぎる人間修行
 督促OLのコミュ・テク! その6 「謝ればいいと思ってんだろ!」と言われない謝り方
09 センパイ武勇伝
 督促OLのコミュ・テク! その7 「ごめんなさい」と「ありがとうございます」の黄金比
10 合コンサバイバル
 督促OLのコミュ・テク! その8 声だけ美人になる方法
11 仕事からもらった武器と盾
おわりに
文庫版あとがき
参考書籍リスト
解説 佐藤優


著者プロフィール

榎本まみ(えのもと・まみ)
新卒で信販会社に入社し支払延滞顧客への督促を行うコールセンターに配属される。クレジットカードの回収部門にて300人のオペレーターを指示し、年間2000億円の債権を回収。現在も某金融機関のコールセンターで働く傍ら、電話オペレーターの地位向上のため活動している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





<関連サイト>

督促(トクソク)OLの回収4コマブログ (著者のブログ)
・・「コールセンターで働くOLのブログ。世の中に「督促」という言葉が広まればいいなぁと活動中。 エッセイ『督促OL 修行日記』(榎本まみ/文藝春秋)。コールセンター専門誌・コンピューターテレフォニ―にて4コマ漫画連載中です」


<ブログ内関連記事>

書評 『「怒るお客様」こそ、神様です!-クレーム客をお得意様に変える30の方法-』(谷 厚志、徳間書店、2011)-「対話をつうじた問題発見」こそ、クレーム対応の要

書評 『仕事漂流-就職氷河期世代の「働き方」-』(稲泉 連、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-「キャリア構築は自分で行うという価値観」への転換期の若者たちを描いた中身の濃いノンフィクション

書評 『修羅場が人を磨く』(桜井章一、宝島社新書、2011)-修羅場を切り抜けるには、五感を研ぎ澄ませ!




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2015年3月26日木曜日

東大の「体力」? 「体力」の東大?-商品名は「体力式アミノ酸ゼリー」という「東大サプリメント」


東京駅前に再開発で建設された日本郵政の本社ビル KITTEのなかに東京大学総合研究博物館があります。別名インターメディアテク
   
東大が明治時代初期の開校以来収集してきた「お宝」が展示されたすぐれもののミュージアム。入場無料!
  
今週日曜日に立ち寄った際にミュージアムショップで見つけたのが「東大サプリメント」。商品名は「体力式アミノ酸ゼリー」
  
「東大で体力? 知力の間違いじゃないの??」と突っ込みを入れたくなりますがが、中身はりんご果汁の入ったゼリー飲料でした。とくに効能があるのかどうかは、よくわからずじまいでしたが・・。
   
ミュージアムショップにはそのほか、ミドリムシで有名なユーグレナのクッキーや、資生堂と共同開発した化粧品なども販売されていいました。最近は「近大マグロ」など、大学発ベンチャーも少なくありませんが、「東大サプリメント」は売り方をもっと工夫したらいいいのに、と思います。
  
「東大で知力は当たり前! 生きるチカラの源は体力ですよ、体力!!!」てなコピーで、東大応援部でも出演させたらいいのに、と。

大学ブランドによる商品開発は、ますます活発になりそうですね。



<関連サイト>

「東大サプリメント 体力式アミノ酸ゼリー」 (公式販売サイト)


<ブログ内関連記事>

大学ブランドというプライベート・ブランド(PB)商品について-玉川学園の「抹茶アイス」は新製品!






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2015年2月24日火曜日

書評 『沈みゆく帝国-スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか-』(ケイン岩谷ゆかり、外村仁解説、井口耕二訳、日経BP社、2014)-カリスマ経営者の死後に経営を引き継ぐことの難しさ


2011年にジョブズが死んですでに4年近くたち、アップルの神通力にも陰りが見えてきている。画期的な製品であったスマートフォンの iPhone だが、新規参入者によってスマホはすでに普及段階を終えてコモディティ化しつつあり、PCと同様に市場はすでに飽和状態にある。

「ジョブズ亡き後のアップル」については誰もが関心のあることだろう。そのテーマに正面からがっぷりと取り組んだのが、日本生まれのジャーナリストのケイン岩谷ゆかり氏である。「著者前書き」によれば、岩谷氏はかつて日本国内で産業記者としてソニーを担当していたという。

創業者がいなくなったソニーが衰退していくのを目の当たりにしている。それだけに、今回会社トップが創業者から別の人に変わる、しかも、事業環境がどんどん複雑になっていくなかでトップが交代するという難しい事態にアップルがどう対処するのか、強く興味を牽かれた。

原題は Haunted Empire: Apple After Steve Jobs, by Yukari Iwatani Kane, 2014、直訳すれば『悩まされる帝国-スティーブ・ジョブズ後のアップル-』となる。あるいは『取り付かれた帝国』。Haunted House とはお化け屋敷のこと。死せるジョブズの影を払拭できないという意味だろうか? 英語の意味は多義的なので、なかなか適切な訳は探しにくい。

56歳という早すぎるカリスマの死のすこし前から始まる記述は、ガンをわずらって衰弱していくジョブズ自身について書かれており、「帝国」の絶頂期がまさにジョブズの末期(まつご)と重なることが手に取るようにわかる。


「ナンバー2」を後継者に選出することの是非

著者自身のテーマであり、読者もまた多大な関心をもつであろう、事業継承のプロセスそのものは興味深い。だが正直いって、スティーブ・ジョブズ死後の記述を読んでもまったくワクワクしないのだ。すでにさまざまなIT関連の記事で読んで知っている事項だからということもあるが、ジョブズの後継者となったティム・クック氏のキャラクターにもその原因があるのだろう。

サプライチェーンの構築と運用を主たる業務としてきた後継者のクックは、厳密に数字で物事を捉え、理路整然と完璧な仕事をこなす能吏タイプで、ビジョナリータイプのジョブズとは真逆のタイプの人である。だが、そうだからこそ、ジョブズを支える「ナンバー2」の副官としては理想的な組み合わせであったわけだ。

ジョブズみずからが後継者として指名したことの意味は大きい。事業継承にかかわる混乱を未然に防ぐためであったが、なによりも事業に精通し、しかもジョブズという突出したキャラクターの持ち主であるカリスマ経営者を支えてきた人材であったためだ。

本書は、この後継者選出の是非について考える恰好の素材を提供してくれている。



後継者への「移行期」の課題

本書には、経営者交代時の課題と試練が綿密な取材にもとづいて描かれている。移行期というものはもっとも難しい時期である。この時期の対応に失敗すると、企業経営に限らず組織というものはうまくいかなくなる可能性が高い。

移行期の課題とは、連続性と変化にかかわるものだ。経営の連続性を維持しつつ、かつ経営者交代にともない独自色を打ち出さなくてはならないという相互に矛盾する二律背反的な状況にあることだ。「変わらないためには、変わらなくてはならない」という表現をつかってもいいだろう。何世代にもわたってつづいてきた老舗(しにせ)には可能でも、一代で築き上げた企業には難しい課題である。

クックの場合は、一癖も二癖もある幹部連中をどうまとめていくかがまず大きな課題であった。ジョブズのような際だったカリスマ的なリーダーなら可能だったことも、能吏タイプの後継者には難しい課題だ。「神格化」の進行する死せるカリスマ創業者の存在を意識の外においやることはできないからだ。

目を外に向ければ、ライバル企業はいまだ創業経営者が最前線で君臨している。アマゾンしかり、グーグルしかり、フェイスブックしかり。これらに対し、かつてPC時代のライバルであったマイクロソフトも、スマホ時代のサムスンもまた、カリスマ創業者が去ったあとは迷走をつづけている。


「破壊的イノベーション」は企業規模が拡大して「追われる立場」になると難しい

イノベーションを原動力としてきたアップルにとって、なによりも困難なことは、画期的なイノベーションを継続していくことだ。規模が拡大して「帝国」となった現在は、きわめて難しい

独特の美学にもとづき、完璧な製品を市場に投入してきたアップルだが、試作品をつくって使用者からのフィードバックをもとに試行錯誤を経ながら完成品をつくりあげていくグーグルやフェイスブックのようなソフトウェア系企業との違いは大きい。後者のやり方が、イノベーション創出の主流となりつつあるだけに、なおさらのことだろう。

ジョブズ亡き後のアップルにとって、後継者のクック自身が全面的に関与していたサプライチェーンから綻びが始まってきたのは痛いところだろう。ファブレスメーカーとして自前の製造機能をもたないアップルは、委託生産先で発生しつづける問題への対処に追われている。

すでにベンチャーの規模ではない、企業価値ではエクソン・モービルを抜いて世界最大になったアップルである。株式を上場している以上、市場関係者は数字でしかものをみないし、それに応えるために企業自身も数字として成果を出し続けて行かなくてはならない。そのような状況で、失敗がつきものの画期的なイノベーションを生み出すことがいかに困難な課題であることか。

ジョブズ自身も愛読して実践してきたクリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』の教訓は、ジョブズ死後のアップルもまた「イノベーションのジレンマ」に陥ったケースとして記録されることになるのだろう。「追う立場」から「追われる立場」に変化しているのだ。「破壊的イノベーション」は企業規模が拡大して「追われる立場」になるときわめて難しい。これはソニーについても同様だ。

グーグルのアンドロイトが「オープンソース型」であるのに対し、アップルは「囲い込み型」のビジネスモデルで収益を上げてきたが。「破壊的イノーベション」による製品では大きな収益をもたらすこのビジネスモデルも、コモディティ化した製品ではかえって足かせになることも著者は示唆している。わたしはこの見解に同感だ。かつて松下電器(・・現在のパナソニック)に高収益をもたらした系列家電販売店チェーンによる販売モデルが、量販店時代に足かせになったことを想起させる。

守りに入った「帝国」はすぐに沈没することも崩壊することはないが、徐々に衰退していくものだ。日本語には盛者必衰という四文字熟語がある。アップルもまたその例外ではないということだろうか。

それにつけても、スティーブ・ジョブズという人が、いかに突出した例外的な存在であったことかが逆説的にあぶり出されるのである。カリスマ経営者に依存した企業は、急成長をとげても、つねに「カリスマリスク」がつきまとう。このことが「ジョブズ後のアップル」の推移を見ていくと、あらためて実感されるのである。

永続的な存在としてサステイナブルな企業とするためには、いたづらに規模を拡大するべきではないという教訓も引き出すことができるかもしれない。だが、いまだ進行中の事象であるだけに、時間がたってから振り返って検証してみるべきケ-ススタディといった内容である。本書の「その後」をぜひ読んでみたい。


PS この書評は R+(=レビュープラス)さまからの献本をいただいて執筆したものです。

PS2 この書評をブログにアップした2015年2月24日がジョブズの誕生日だったとはまったく知らなかった。56歳で亡くなったジョブズは生きていれば、今年はなんと60歳の還暦。なんという偶然の一致というべきか、それとも・・・。あらためてご冥福を祈ります。合掌 (2015年2月25日 記す)。





目 次 

著者まえがき
序章 かつて私は世界を統べていた
第1章 去りゆくビジョナリー
第2章 ジョブズの現実歪曲
第3章 CEOは僕だ
第4章 在庫のアッティラ王
第5章 皇帝の死
第6章 ジョブズの影と黒子のクック
第7章 中国の将軍と労働者
第8章 アップルの猛獣使い
第9章 Siriの失敗
第10章 アンドロイドに水素爆弾を
第11章 イノベーションのジレンマ
第12章 工員の幻想と現実
第13章 ファイト・クラブ
第14章 きしむ社内、生まれないイノベーション
第15章 サプライヤーの反乱
第16章 果てしなく続く法廷闘争
第17章 臨界に達する
第18章 米国内で高まる批判
第19章 アップルストーリーのほころび
第20章 すりきれていくマニフェスト
終章2013年11月
謝辞
訳者あとがき
解説
原注

著者プロフィール

ケイン岩谷ゆかり(Yukari Iwatani Kane)
ジャーナリスト。1974年、東京生まれ。ジョージタウン大学外交学部(School of Foreign Service)卒業。父の仕事の関係で3歳の時に渡米、シカゴ、ニュージャージー州で子ども時代を過ごす。10歳で東京に戻ったものの、15歳で再び家族とメリーランド州へ。大学3年の時に1年間上智大学へ逆留学したが、その後アメリカへ再び戻る。アメリカのニュースマガジン、U.S. News and World Reportを経て、ロイターのワシントン支局、サンフランシスコ支局、シカゴ支局で勤務後、2003年末に特派員として東京支局に配属。通信業界、ゲーム業界などを担当。2006年にウォール・ストリート・ジャーナルへ転職。東京特派員としてテクノロジー業界を担当。2008年にサンフランシスコに配属、アップル社担当として活躍。スティーブ・ジョブズの肝臓移植など数々のスクープを出したのち、本書執筆のために退職。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


訳者プロフィール

井口耕二(いぐち・こうじ)
1959年生まれ。東京大学工学部卒、米国オハイオ州立大学大学院修士課程修了。大手石油会社勤務を経て、1998年に技術・実務翻訳者として独立。翻訳活動のかたわら、プロ翻訳者の情報交換サイト、翻訳フォーラムを友人と共同で主宰するなど多方面で活躍している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


解説者プロフィール

外村仁(ほかむら・ひとし)
戦略コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーを経て、アップル社でマーケティングを担当。ジョン・スカリーからスティーブ・ジョブズまで5年間で4人のCEOに仕える。スイスIMDでMBAを取得後、シリコンバレーで起業、ストリーミング技術の会社を立ち上げ、売却。ファーストコンパスグループ共同代表、スタートアップ数社のアドバイザーやOpen Network Labの起業家アドバイザーなどのほか、エバーノート日本法人の会長も務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

Appleのティム・クックCEO、ケイン・岩谷ゆかり氏の著書を「ナンセンス」と酷評 (2014年3月9日)

Yukari Iwatani Kane (元ウォールストリート・ジャーナルのアップル担当記者ケイン・岩谷ゆかり氏のサイト)


アップルは「沈みゆく帝国」なのか(ケイン岩谷ゆかり)

第1回 皇帝亡きあとの帝国 ジョブズの亡霊と比べられるティム・クックCEO (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年6月18日)

第2回 ジョブズの遺産、アップル・ユニバーシティ 幹部を鍛える研修プログラム (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年6月25日)

第3回 広告から透けるアップルに欠けているもの シンク・ディファレント誕生と今の違い (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月2日)

第4回 ジョブズが後継に選んだ男、ティム・クックは何者か? 故郷、アラバマ州ロバーツデールを訪ねる (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月9日)

第5回 ジョブズが認めたデザイナー、ジョナサン・アイブ 天才は日立、ゼブラ製品もデザインしていた (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月17日)


ジョブズ存命でも、アップルの進化難しかった 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(前編) (東洋経済オンライン、2014年8月9日)

クック体制でアップルの均衡崩れつつある 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(後編) (東洋経済オンライン、2014年8月11日)




アップル社(米国本社)の公式サイト

Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005 (スタンフォード大学での卒業祝辞スピーチ動画 英語・字幕なし)。
 スピーチの英語原文はスタンフォード大学オフィシャルサイトに掲載。
・・ジョブズ氏の死生観も語られている


<ブログ内関連記事>

アップル社

書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明
・・まさにこのサプライチェーンのかかわる側面こそ、CEO職をジョブズから引き継いだかつてのナンバー2ティム・クックの業務であった


スティーブ・ジョブズ関連

巨星墜つ-アップル社のスティーブ・ジョブズ会長が死去 享年56歳 (1955 - 2011)

スティーブ・ジョブズはすでに「偉人伝」の人になっていた!-日本の「学習まんが」の世界はじつに奥が深い

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!


カリスマ経営者退任後の経営

カリスマが去ったあとの後継者はイノベーティブな組織風土を維持できるか?-アップル社のスティーブ・ジョブズが経営の第一線から引退

「世襲」という 「事業承継」 はけっして容易ではない-それは「権力」をめぐる「覚悟」と「納得」と「信頼」の問題だ!


ナンバー2という副官のあり方

書評 『No.2理論-最も大切な成功法則-』(西田文郎、現代書林、2012)-「ナンバー2」がなぜ発展期の企業には必要か?
・・ナンバー1とは根本的に異なる機能を果たすナンバー2の難しさ

最高の「ナンバー2」とは?-もう一人のホンダ創業者・藤沢武夫に学ぶ
・・創業経営者の藤沢武夫は本田宗一郎とともに退任した

「長靴をはいた猫」 は 「ナンバー2」なのだった!-シャルル・ペローの 「大人の童話」 の一つの読み方
・・優秀なナンバー2がいかに重要であるか!




(2012年7月3日発売の拙著です)








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2015年2月6日金曜日

書評 『日本人の値段-中国に買われたエリート技術者たち-』(谷崎光、小学館、2014)-中国の「いま」からあぶりだされてくる日本企業と日本人論


『日本人の値段』(谷崎光、小学館、2014)という本が面白い。中国企業に転職した日本人技術者たちの「いま」を追ったレポートです。

日本人が人質となって高額の身代金を請求された末に殺害されてしまった事件が発生したばかりなので、このタイトルはなんだか不謹慎な印象を受けるかもしれませんが、この本の副題は「中国に買われたエリート技術者たち」であり、日本から中国に転職した技術者たちの「報酬」と「処遇」についてです。
 
なぜ日本人技術者たちは中国企業に転職していくのでしょうか? それはもちろん需要と供給の経済学が転職市場で働いているからですが、北京在住14年の著者は中国企業と日本人技術者、そしてその両者の仲介を行う日中双方の人材会社に密着取材を行って、知られざる世界を明らかにしています。
  
話としては断片的に耳にしてきた事象ですが、このように徹底取材して立体的に構成したたレポートを読むと、日本の製造業大手からスピンオフして中国企業に転職した技術者たちへのニーズが、まさにいまの「旬」であることがわかります。著者もいうように、5年後はもう様相は変わっていることでしょう。
    
公開された技術情報は特許情報として入手可能です。非公開情報も図面情報など簡単に漏洩してしまうのが、悲しいかな日本企業の脇の甘さです。だが、肝心かなめの生産技術は技術者「個人」に蓄積されるものであり、ひいては技術者が勤務する「組織」に蓄積されるものです。

前者はいわゆる「形式知」、後者は「暗黙知」というやつですね。形式知はデジタル情報であれば簡単に複製が可能なので伝達が容易ですが、人に蓄積されている暗黙知はその本人の存在を抜きにしては伝達がむずかしい。
  
生産技術というものは人について移転するもの。だから人を囲い込んでしまえというのは、中国人の合理主義の現れでしょう。一本釣りの引っこ抜きだけでなく、会社ごと買収してしまえ、というのも理にかなったことです。
  
中国企業には地道に技術を蓄積したり、じっくり人を育てるという発想がないのです。と、ここまで書いてきて思うのは、もはや日本企業にもそんな余裕はないのかもしれない、ということ。さきに「旬」だと言ったのは、中国企業は40歳代以下の日本人エンジニアは必要としていないようだからだです。
    
本書を読むと、中国企業と技術にかんする考え方民生技術と軍事技術のあやうい境界線日本の製造業の将来についてなど、さまざまなことを考えるヒントになることでしょう。中国の「いま」からあぶりだされてくる、日本企業と日本人論にもなっています。
 




目 次

はじめに
第1章 自動車メーカーのエンジニア
第2章 ふたりの家電技術者
第3章 国際ヘッドハンターという仕事
第4章 建機メーカーの対日戦略
第5章 中国が狙う日本の技術


著者プロフィール
谷崎光(たにざき・ひかる)
1964年生まれ。作家。大手流通業と中国との合弁商社勤務の体験を描いた作品、『中国てなもんや商社』(文春文庫)は1998年に松竹で映画化もされた。著書に『北京大学てなもんや留学記』(文春文庫)、『感動中国!女ひとり、千里をいく』(文藝春秋)、『男脳中国女脳日本 なぜ彼らは騙すのか』(集英社インターナショナル)、『てなもんや中国人ビジネス』(講談社)、『中国人の裏ルール』(中経の文庫)など、多数。2001年から北京大学経済学部留学を経て現在、北京在住14年目。書き手として、中国を体験しつづけている(単行本カバー見返りの著者紹介文より)。



<ブログ内関連記事>

NHKスペシャル 「“中国人ボス”がやってきた-密着 レナウンの400日」(2011年10月23日) を見ましたか?

『中国美女の正体』(宮脇淳子・福島香織、フォレスト出版、2012)-中国に派遣する前にかならず日本人駐在人に読ませておきたい本

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

ひさびさに宋文洲さんの話をライブで聞いてきた!-中国人の「個人主義」について考えてみる・・小室直樹の『中国原論』も、できれば読んで欲しい





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2015年1月20日火曜日

書評 『時間資本主義の到来-あなたの時間価値はどこまで高められるか?-』(松岡真宏、草思社、2014)-近代的価値観が融解するなか、幸福度の高い「時間リッチ」な人になるためのヒント


「時間資本主義」というと大げさなタイトルだが、「時間価値」といえばピンとくるかもしれません。あるいは、「カネ」ではなく「時間」そのものが「資本」となる、という意味の「時間資本」なら理解できなくはないでしょう。「主義」は余計です。

この本にはとりたてて目新しいことが書いているわけではありません。議論に生煮えの点が目立ちますし、本論とは関連性の薄い教養ひけらかし的な側面も余計だと感じられます。とはいえ、アタマの整理には役立つ本だといえます。

本書のキモは、「すきま時間」×「スマホ」=時空ビジネス という一行に尽きるといっていいかもしれない。

スマホの普及で「すきま時間」や「細切れ時間」の切り売りが可能となったことは重要ですが、ポイントを稼いで小遣いにする、「すきま時間」を利用したビジネスの実例についてもっと具体的に紹介してもらったほうがよかったでしょう。

本書には言及はありませんが、もともと大型コンピュータの時間貸しなど、固定費比率の高いビジネスが稼働率を上げるために「すきま時間」を切り売りするビジネスは存在していました。「すきま時間」を売り側にとっては固定費がカバーでき、買う側にとっては固定費負担のない適正価格での利用が可能となるので、需要サイドと供給サイドと利害が一致するわけです。

本書に登場しないものとしては、たとえばネットアンケートのマクロミルなど。あるいはアマゾンやヤフーなどに「出店」して無店舗販売で商品を売るなども、売る側の立場からみれば「すきま時間」で顧客対応するわけですから、広い意味では「すきま時間」商売のなかに加えていいような気もします。

人間というのは、自分にとっては必要悪だが、無駄と思える時間は徹底的に短縮化したいと思う一方、自分がこだわりたいものに対しては、それを無駄とはけっして考えないという傾向があります。前者が「すきま時間」ビジネス利用の動機だとすれば、後者はいわゆる「時間消費」というやつでしょう。時間は限られているのです。モノよりコトの時代なのです。

節約できる時間は徹底的に節約する、これに対応できるのはアマゾンなどの一部の大企業に絞り込まれてくる。効率性を徹底追求できるのは、企業規模が大きく飽くなき効率追求に資本投下できる企業でなくては不可能です。しかも、大企業どうしの競争は激烈なものになります。いわゆる血で血を洗う「レッドオーシャン」です。「時間競争」の勝者は一部の大企業に集中するのは当然です。

ですが一方、「時間消費」への対応は、需要サイドの個々人のニーズが個別性が高いので基本的に一対一の対応にならざるをえませんい。したがって、個別需要に対応することのできる小回りのきく小企業や個人でもプレイヤーとして活躍できるわけです。

本書は、ビジネス書というよりも、「勤勉」に代表される「近代的な価値観」が融解していくなかで生きていかなくてはならないビジネスパーソンにとっての、生き方の方向性について語った自己啓発系(?)の内容といったほうがいいでしょう。

その主要なポイントは、いかに「時間リッチ」になるか、ということにあります。

幸福の尺度を時間とカネの二軸で考えてみると面白い。それが本書151ページに登場するマトリクスです。「時間リッチ」で「マネーリッチ」(=おカネ持ち)な人だけでなく、「時間リッチ」だが「マネープア」(=おカネがない)の人も幸福度が高いのに対し、「マネーリッチ」だが「時間プア」な人も、「マネープア」でしかも「時間プア」な人もまた幸福度が低い

おカネがなくても「時間」があれば幸せ。さらにおカネがあれば、なお幸せ。おカネもちであろうとなかろうと、時間に余裕があって、自分の好きなことに時間が使える人は幸せ度合いが高いということですね。もちろん、ここでいう「時間」とは、その本人にとっての主観的なものですから、定量的に計測できる長さの時間ではありません。

高学歴で大企業に勤務する人が多い、「マネーリッチ」だが「時間プア」な伝統的エリートは、今後ますます給与水準は下がっていくのは、著者がいうように避けられないでしょう。いくらビジネス書を読んで勉強してまじめに働いても未来はないということです。いくらビジネス書を読んで仕事の効率性はあがっても、近代「後」に必要とされるクリエイティブな能力とはほど遠いのです。遊んでいないと、よい発想は生まれてきません。

近代的な価値観が融解したあとは、公私混同、つまりワークとライフは融合して分離不能なものとなる。アイデアを生み出すには、よい意味の公私混同が必要なことは、これまでも語られてきたことえあり、わたし自身も2012年に出版した拙著『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012)に書いているとおりです。

「近代」がすでに終わっている現状について、アタマで整理するために流し読みしてみるとよいでしょう。






目 次

 いま、なぜ「時間資本主義」なのか?
第1部 時間資本主義の到来
 第1章 人類に最後に残された制約条件「時間」
 第2章 時間価値の経済学
 第3章 価値連鎖の最適化から1人ひとりの時間価値の最適化へ
第2部 時間にまつわるビジネスの諸相
 第4章 時間そのものを切り売りする
 第5章 選択の時間
 第6章 移動の時間
 第7章 交換の時間
第3部 あなたの時間価値は、どのように決まるのか
 第8章 人に会う時間を作れる人、作れない人
 第9章 公私混同の時代
 第10章 時間価値と生産性の関係
第4部 時間価値を高めるために─場所・時間・未来
 第11章 時空を超えて
 第12 章 巨大都市隆盛の時代
 第13章 思い出の総和が深遠な社会へ
結局のところ、時間資本主義とはいかなる時代なのか
あとがき
参考文献 


著者プロフィール
松岡真宏(まつおか・まさひろ)
フロンティア・マネジメント代表取締役。東京大学経済学部卒業後、野村総合研究所やUBS 証券などで、流通・小売り部門の証券アナリストとして活動。UBS 証券で株式調査部長に就任後、金融再生プログラムの一環として設立された産業再生機構に入社し、カネボウやダイエーの再生計画策定を担当。両社では取締役に就任し計画実行に携わる。2007 年に弁護士の大西正一郎氏と共同で、フロンティア・マネジメント株式会社を設立し、共同代表に就任。国内外で、経営コンサルティング、M&A 助言、企業再生を軸とした経営支援を行う。著書に『小売業の最適戦略』(日本経済新聞出版社)『百貨店が復活する日』(日経BP 社)『問屋と商社が復活する日』(同)『逆説の日本企業論』(ダイヤモンド社)、『ジャッジメントイノベーション』(同、共著)がある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<ブログ内関連記記事>

「ワークライフバランス」について正確に理解すべきこと。ワークはライフの対立概念ではない!?

書評 『10年後に食える仕事 食えない仕事』(東洋経済新報社、2012)-10年後の予測など完全には当たるものではないが、方向性としてはその通りだろう






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