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2014年5月15日木曜日

書評 『世界の経営学者はいま何を考えているのか-知られざるビジネスの知のフロンティア-』(入山章栄、英治出版、2012)-「社会科学」としての「経営学」の有効性と限界を知った上でマネジメント書を読む


出版当時、アメリカのビジネススクールでアシスタント・プロフェッサー(准教授)の職にあった著者が書いた本です。著者は現在は日本に戻っています。

積ん読状態だったこの本は、買ってから一年以上たてからやっと読みましたが、思ってた以上にこの本は面白い。ただし、読者によって面白さの意味は違うと思います。

わたしはまず、「ドラッカーなんて誰も読まない!?  ポーターはもう通用しない!?」という帯のキャッチコピーにまず引きつけられました。


■ドラッカーに言及する「経営学者」が英語圏にはいない理由

というのも、すでにこのブログでも、2011年5月11日水曜日付けの記事で ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要 と題して書いてます(・・本書が出版された2012年11月の一年半以上前です!)。ここにエビデンス(証拠)として提示致します。

わたしはちょうど 1990年から2年間、米国の大学院で M.B.A.(経営学修士号)コースにいましたが、その2年のあいだ、ドラッカーの「ド」の字も聞いたことがありませんでした。

その理由は、現実のビジネスにおいても時代遅れになっているからという側面が大きいから。大前研一氏の発言を引いてありますのでご参照いただきたいと思います。

ドラッカーは「マネジメント」という概念をつくった先駆者の一人ですが、本人はあくまでも自分のことを「社会生態学者」と規定しており、「経営学者」とは名乗っていませんでした。その本質においてドラッカーは「思想家」というべきでしょう。

『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社、1995)で有名なジム・コリンズはドラッカーの後継者であることを自他ともに認めていますが、現在では大学の世界からは完全に足を洗って著述家になっています。

本書の記述によれば、ドラッカーに言及する人はアメリカの「経営学者」にはまったくいないのです。ドラッカーは「思想家」としては現在でも重要ですが、最先端の経営にはもはや応用不可能である、といってもいいでしょう。

いわゆる「日本的経営」の形成に、ドラッカー経営学が与えた思想的な意味合いが大きかったことは否定できません。むしろ大いに意味があったというべきでしょう。ドラッカー経営思想が米国よりも、ここ日本においてこそ定着したことは否定できない事実です。ドラッカー自身も浮世絵の収集家でしたので、日本訪問が楽しみだったようです。

ドラッカーはマネジメントという概念をはじめて体系化した古典として読まれていくでしょうが、「経営学者にとっての経営学ではない」(!)という認識は、知っていてけっして損ではないはずです。ドラッカー命の方々も、いずらに反発するのは無意味だといえましょう。


扱うテーマはあまりにも広すぎるのだが・・・

本書がカバーする範囲が広いのは、著者がいう「世界の経営学」においては最先端の研究テーマからトピックを網羅的に取り上げているからです。

日本人読者にも関心の高いと思われる競争戦略、イノベーション、組織学習、ソーシャル・ネットワーク、M&A、グローバル経営、国際起業、リアル・オプション、コーポレートベンチャー投資などのトピックスを取り上げ、英語の学術論文の裏付けのある議論を行っています。

わたし的には、やや総花的に過ぎるかなという印象をもちますが、最先端の研究テーマが何であるかを知るには、ちょうどいいかもしれません。もっと深掘りしてほしいテーマもありますし、全体の構成としては「理論編」と「テーマ別トピックス」に分離したほうがよかったのではないかとも思いますが。

基本的には、経営の現場では「常識」として語られている話題です。それを実証研究によって裏付けをするというのが「経営学」の役割であるということが本書を読むと理解できます。

とはいえ、「経営学」という学問は、あくまでも「跡付け」に過ぎない、という印象をぬぐい去ることができません。それがわたしの正直な感想です。「裏付け」はあくまでも「跡付け」という形でしかありえないのであり、ビジネスの「現場」とはスピード感がまったく違います。

ただし、ビジネスの現場においては試行錯誤(・・いわゆる Leaning by Doing: 失敗と成功体験から学ぶ) が可能ですが、ビジネスパーソンには過った前提に基づいた思い込みや予見といったものがつきまとうことも否定できません。そのため、意志決定を過ることが後を絶たないのも事実。

かならずしも因果関係は明らかではなくても、事象と事象のあいだに相関関係があれば実行してしてしまうというのが経営の実践の場での行動ですが、ビッグデータ時代はこれがさらに加速しています。

その意味では、経験の浅いビジネスパーソンにとっては本書は有用な読み物であるといっていいでしょう。すでにビジネスとマネジメントを現場で実践している人にとっては、「まあ、そんなもんか」と受け取る程度でよいのではないか、と思うわけです。トピックとしては知的関心をそそるものもありますが。

おなじ経営学者が書いた論文であっても、一般ビジネスパーソン向けに経営雑誌に発表される「雑誌論文」と、専門誌に査読を経て投稿される「学術論文」とは違うということです。

後者の「学術論文」は、一般のビジンスパーソンが読むことはあまりないので、「学術論文」として取り上げられたテーマを知ることができるという点に本書の意義があります。


「経営学」は「社会科学」である-ベースは経済学・心理学・社会学

本書で強調されているのは、「経営学」は「社会科学」であるということです。

ただし、英語圏でいう「社会科学」(ソーシャル・サイエンス)は、日本でいう「社会科学」とは異なり、あくまでも「科学」であり、統計学をもちいた実証研究が中心で、理論志向の強い「学問」であるということです。

経営コンサルタントや経営評論家やジャーナリストがビジネス書と経営書で書いたり、テレビや講演でしゃべっている内容と違うのもあたりまえなのです。「経営学」はあくまでも「学問研究」であるというのはそういうことです。

本書を読むうえで気をつけなくてはいけないのは、タイトルにもなっている「世界の経営学」とは、英文論文の世界で展開されている「経営学」だということです。日本語で執筆された論文のなかで展開されている「日本の経営学」ではないということです。後者は、いわばローカルな世界ということですが、日本人が英文で発表した論文は「世界の経営学」というカテゴリーのなかに分類されることになります。

わかりやすくするために、やや図式的に描いてますが、ローカルな「日本の経営学」が事例研究を中心とした記述的なものが多いのに対し、グローバルな「世界の経営学」は統計分析で実証したエビデンス・ベースのものが多いということになります。すくなくとも事例研究中心のアプローチは「世界の経営学」では主流ではないということのようですね。

先にも書きましたが、わたしがアメリカのMBAコースで学んだ1990年初頭においても、英語圏でいう「経営学」とは基本的にそういうものでした。授業ではHBS(ハーバード・ビジネススクール)作成のケース(=事例研究)が使用されていましたが、テキストのほかに大量に読まされる論文は、まさに本書で取り上げられているようなものばかりでありました。

経営学のディシプリン(・・専門学科)は、① 経済学、② 心理学、③ 社会学 の3つのいずれかあると本書には書かれています。経営学にはそれ自身の理論体系はないのです。実践の学である以上、それは当然というべきかもしれません。実践としての政治と学問としての政治学の関係も似たようなものでしょう。

会計学や貿易論など実務をベースにした「商学」が長い歴史をもっているのに対して、「経営学」はあたらしい学問であるということです。社会学じたい、まだまだ歴史のあたらしい学問ですが、経営学はそれに劣らずあたらしいということです。

著者も「第6章 「両利きの経営」」で指摘していますが、経済学、心理学、社会学という3つのディシプリン以外の周辺諸科学にも目を向けるべきだと思います。「深さ×幅の広さ」が大事なことは、拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』で述べていることと同じです。

ビジネスパーソンにもっとも必要なものは、狭くて深い「専門知識」と広くて浅い「雑学」。これが、ビジネスマンとして25年以上やってきた私の実感です。「専門知識」と「雑学」のふたつが両輪になってこそ、ビジネスだけでなく人生もまた豊かになるのです。

これは、拙著の「まえがき」の最初の一文です。「学問としての経営学」でいえば、「専門」とは3つのディシプリンのいずれかであり、「雑学」とは「専門」以外の森羅万象となるわけです。後者の「雑学」の幅の広さがテーマ選定にあたってモノをいうことは言うまでもありません。


本書で指摘されている理論的側面について

わたしが面白いと思ったテーマは以下の3つです。すなわち、「トランザクション・メモリー」と「見せかけの因果関係」、それから「経営理論とは何か」というテーマです。

読む人によって、興味の対象が異なるでしょうが、多くの人と同様に「トランザクション・メモリー」はひじょうに面白い議論だと思います。

「トランザクション・メモリー」は、第5章で取り上げられていますが、組織に「記憶」があるという文言はオカルト的ではないか(?)といいう印象をもちます。なぜなら、「記憶」はあくまでも個体のものであり、個人個人の「記憶」が集合的になっているということに過ぎません。

組織は生物学のアナロジー(比喩)で語ることはできますが、組織じたいには意志はない。そう見えるだけの話であって、あたかも組織に意志があるように見るのはオカルト的で危険な発想でしょう。あくまでもアナロジーと捉えるべきです。組織そのものにはDNAなどありません。社会学や社会心理学の立場からはあり得ない話です。

1980年代後半には、ビジネス界ではすでに「ノウハウ(know-how)よりもノウフー(know-who)だ」と言われていたことであり、「情報を知っている誰か(who)を知っていること」が重要だという発想そのものには、とくに新規性はないのです。いまどきの若い読者はそんなことはまったく知らないでしょうが。

これにくらべると、第6章で取り上げられている「見せかけの因果関係」のほうが、はるかに重要な問題です。ここでは詳しい説明は省略しますが、「内生性」(endogeneity)についての議論はきわめて重要です。ただし、英語圏では常識となっている、ヒュームの因果関係の議論についての言及がまったくないのは不思議に思いますが。

そして、第15章で取り上げられている「経営理論とはなにか?」という議論は、ビジネスには直接関係ないかもしれませんが、経営学も含めた「社会科学」の「理論」の意味を考えるうえで不可欠な議論です。ここでは、かの有名な哲学者カール・ポパーの「反証可能性」の議論が紹介されています。

このほか、概念レベルの理論と実証は別物であること、経済学の数学とは異なる「自然言語」を使用する経営学の意味、論理学と科学哲学をベースにしたトレーニングの必要など、著者の意見にはまったく賛成です。

経営学という学問が自然科学と異なるのは、経営現象はつねに現実の方が理論に先行するという点。学問が可能なのは、現実を理論的に位置づけることに限定されるのです。

後付けの学問である「経営学」の有効性と限界を知った上で、本書を読むことは意味あることです。ビジネス書ではなく、たまにはこういったマネジメント書を読んでアタマを整理するする必要があるのはそのためなのです。






目 次

この本を手にされた方へ

PARTⅠ これが世界の経営学
 第1章 経営学についての三つの勘違い
 第2章 経営学は居酒屋トークと何が違うのか
 第3章 なぜ経営学には教科書がないのか

PARTⅡ 世界の経営学の知のフロンティア
 第4章 ポーターの戦略だけでは、もう通用しない
 第5章 組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか
 第6章 「見せかけの経営効果」にだまされないためには
 第7章 イノベーションに求められる「両利きの経営」とは
 第8章 経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(1)
 第9章 経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(2)
 第10章 日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか
 第11章 アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか
 第12章 不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか
 第13章 なぜ経営者は買収額を払い過ぎてしまうのか
 第14章 事業会社のベンチャー投資に求められることは何か
 第15章 リソース・ベースト・ビューは経営理論といえるのか

PARTⅢ 経営学に未来はあるか
 第16章 経営学は本当に役に立つのか
 第17章 それでも経営学は進化しつづける

この本を読んでくださった方へ


著者プロフィール

入山章栄(いりやま・あきえ)
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。1998年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任し、現在に至る。専門は経営戦略論および国際経営論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

勉強もスポーツも、基礎から学ぶとつまらない 最先端を理解した気分になることが成長の糧に(気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 第1回) (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年8月29日)

「ぶっちゃけ、経済学は経営学を下に見ている」 なぜ経営学と経済学の議論は噛み合わないのか(気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 第2回)  (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年9月1日)

現代版「ナッシュ均衡」は発掘できるのか 評価軸の明確化で生まれる可能性とリスク(気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 第3回) (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年9月3日)

日本の経営学が海外に劣っているわけではない 良し悪しではなく、それぞれの違いを理解する (気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 最終回)  (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年9月 日)



<ブログ内関連記事>

書評 『ヤバい経営学-世界のビジネスで行われている不都合な真実-』(フリーク・ヴァーミューレン、本木隆一郎/山形佳史訳、東洋経済新報社、2013)-これがビジネス世界の「現実」というものだ

「君臨する企業の法則:日本への教訓-マイケル・クスマノ MITスローンスクール教授)講演会のお知らせ(2012年1月17日:無料 事前予約

人生の選択肢を考えるために、マックス・ウェーバーの『職業としての学問』と『職業としての政治』は、できれば社会人になる前に読んでおきたい名著
・・「実践」としての政治と「学問」としての政治学は、まったく別物である

ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要

『「経済人」の終わり』(ドラッカー、原著 1939)は、「近代」の行き詰まりが生み出した「全体主義の起源」を「社会生態学」の立場から分析した社会科学の古典
・・ドラッカーは「思想家」として読むべきなのだ

レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010)-ドラッカー自身の肉声による思想と全体像

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ
・・因果関係よりも相関関係を重視するのが統計学の世界

書評 『1億人のための統計解析-エクセルを最強の武器にする-』(西内啓、日経BP社、2014)-ビジネスパーソンなら誰もが使えるはずのエクセルでデータ分析が可能となる

(2015年12月27日 情報追加)



(2012年7月3日発売の拙著です)





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2014年5月11日日曜日

書評 『1億人のための統計解析-エクセルを最強の武器にする-』(西内啓、日経BP社、2014)-ビジネスパーソンなら誰もが使えるはずのエクセルでデータ分析が可能となる


「1億人のための」というタイトルは、「日本国民のための」という意味と同じでしょう。数字を使ったほうが印象に残るのは言うまでもありません。もちろん、エクセルを日常的に使用する日本人が、そんなに多くはいるはずがない明らかではありますが。

それはさておき、表計算ソフトの「エクセル」がここまで普及している以上、それを使わないという手はない。この点は著者の考えにはまったく賛成です。

パソコンでプログラムを組んだ時代から始まり、「MSマルチプラン」、そして「ロータス123」を経て「エクセル」がビジネス界のデファクトになるとは、20年前には考えもしませんでしたが、1981年生まれの著者には当たり前の世界のようですね。

統計解析ソフトには SPSS などがあり MBAコースでも使用が推奨されますが、本書はエクセルの関数だけでもデータ分析はここまでできますよと示した好例です。あらたなソフトウェアを購入する必要もないので実際的だといっていいでしょう。

データサイエンティストではなく、目指しているわけでないビジンスパーソン向けに、エクセルをつかったデータ分析のやり方を解説した本書は、エクセル初心者のみならず、エクセルは習熟していると思っている人も読んでみる価値はあります。

というのも、恥ずかしながらわたくしも、本書の第4章「上級編」で紹介されている高度な機能は使っていないからです。


「相関関係」と「因果関係」はイコールではない

著者は別の記事のなかですが、「「少しでも絶対的ではないこと」について言及しようと思えば、現状、統計学以外に記述したり議論したりする方法が人類にはない」、といってます。そう言い切っても問題ないでしょう。

統計学はある特定の事象とその他の事象とのあいだの「相関関係」をあきらかにするものです。

相関関係は因果関係とはイコールでありません。ここらへんがわかっていないビジネスパーソンが少なくないのは困ったことです。一般国民まで含めたら、さらにひどい状態と言わねばなりません。

ビジネスパーソンは学者でない以上、因果関係の究明に時間をかけ過ぎても意味はないのです。個人的にメカニズム分析に関心があるとしても、「時間」という絶対的な「制約条件」のもとにおいては、個々のビジネスパーソンにできることは限られます。

むしろ、ビジネスパーソンにとって意味があるのは、相関関係があるとわかった結果に価値があるのかどうかです。ビジネスにとっての「価値」とは、それがカネになるのかどうかということです。当たり前の結果がでてきたとしても、その発見に価値はありません。つぎのアクションにつながる発見でないと意味はないのです。

「だからどうした?」という突っ込みを上司や経営者から招かないために、カネと時間を費やすことは避けなければなりません。ビジネスパーソンであれば、自分の「時間あたりコスト」を意識すべきなのは当然のことです。

あらためて、「時はカネなり」(Time is Money)という格言を想起する必要がありますね。統計学によるデータ解析もまたそのために取り組まなければなりません。



ビジネスの現場における「仮説」の意味

いま「時間という制約条件」について触れましたが、著者は「仮説」思考のワナにとらわれないことが大事だと強調しています。基本的に賛成です。

『私たちはすでに膨大なデータを持っている。それをどう扱っていいか分からないだけなのだ。そういう時代に、仮説を考えてから解析するということは「膨大なデータの一部だけしか見ない」ということでもある』

著者は医療統計の世界の出身のようなので、「仮説」というと厳密なものを想定しているのでしょう。医療の世界もビジネスの世界と同様、「経験に基づいた勘やセンス」で診断する世界から、EBM(エビデンス・ベースト・メディスン)という定量的なデータ分析をもとにした診断の世界に移行しつつあるのが現状です。

とはいえ、ビジネスパーソンが一般的にクチにする「仮説」というのは、せいぜい「当たりをつける」くらいの意味に過ぎません。科学者が科学研究におけるほど厳密な意味で使っているわけではないのです。「あたりをつけた」裏付けをデータ分析で行うという姿勢が重要でしょう。

だから、試行錯誤しながらデータ分析を進めていくという意味であれば、「仮説は立てるな」という著者の発言にそれほどこだわる必要はないといっていいでしょう。ビジネスならある程度まで臨機応変に修正も可能ですが、治療方法や新薬開発における間違いは人の生死にもつながりかねない、文字通り致命的なものとなるのです。その違いは大きいのです。

「第1章 統計解析で課題を解決するためのフレームワーク」で、「価値ある分析を行うための3つのポイント」を、「アウトカム」「解析単位」「説明変数」の3つで説明しています。

「アウトカム」: データからわかった時に最もうれしい変数。利益に直結するものとしての売り上げ、在庫コストなど
「解析単位」: アウトカムを構成している単位。着目すべき分析対象のこと。望ましい顧客、商品、従業員など
「説明変数」: 「解析単位」の違いを生み出す「特徴」のこと。年齢、性別などの属性や、来店履歴や行動特性など

「アウトカム」が決まれば「解析手法」は自動的に決まるというのはまさにその通りです。「当たりをつける」ということはそういう意味でもあります。やみくもに分析を欠けるのでなく、分解しながら絞り込みを行うことができるわけです。

ビジネパーソンなら、「アウトカム」ではなく「結果」とか「ゴール」というコトバで代替してもいいでしょう。こういう結果がほしから、こういうデータ解析を行う、ということですね。

「あたりのつけ方」は、試行錯誤で身につけるしかありません。そのために、みすから手を動かして、本書に取り得あげられている case に取り組んでみるといいでしょう。

2ある種の「常識」を働かせるも必要であることがわかるはずです。これは統計学というよりも、ビジネスパーソンとしての経験がものをいう世界です。いわゆる「仮説検証」のマインドセットで養われるものですね。

「アウトカム」「解析単位」「説明変数」という3つを意識してデータ分析すれば、ビジネスにおいては問題なく活用可能です。


まずはエクセルでデータ分析ができるまで習熟する

中堅中小企業であってもデータ分析のもとづいた経営が不可欠になりつつあります。

あらたなソフトウェアの導入をともなわず、エクセルをつかったデータ分析でどこまでできるか、データサイエンティストではないビジネスパーソンも知っておくことに意味があります。そのために本書を活用してみればいいのです。

そのうえで、データ分析は外部にアウトソーシングするか、あるいは自社に各種のBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入しても遅くはないでしょう。統計データ分析の意味がわかっているかいないかでは、同じ分析結果をみても意味合いが大きく異なります。

ソフトウェアを導入する前に、データ分析するというマインドセットとスキルを社員が身につける必要があることは言うまでもありません。エクセルを使わない会社もビジネスパーソンも、まずいないはずですから。



PS. この書評は、R+(レビュープラス)さまより献本をいただいて執筆したものです。






目 次

はじめに

第1章 統計解析で課題を解決するためのフレームワーク
 解析の正しい進め方-価値ある分析を行うための3つのポイント
 利益に直結するものを決める-アウトカム
 着目すべき分析対象を決める-解析単位
 違いを生み出す「特徴」を洗い出す-説明変数
 解析手法は自動的に決まる-質的なデータと量的なデータ
 必ず3つのポイントを意識して解析を進める

第2章 仕事で使う統計解析 【初級編】
 case1: 和食レストランチェーンの売上を増やすには?
  分析1: 顧客の性別や家族構成は、売上に影響するか?
  分析2: 来店回数と利用金額の間にはどんな関係があるか?
  分析3: 重回帰分析を行うためにダミー変数の準備をする
  分析4: 売上に影響を与えている、複数の要因を洗い出す
  報告: 売上を向上させるために、どんな手を打つべきか?

第3章 仕事で使う統計解析 【実践編】
 case2: 事務機器販売の営業戦略を立てる 【営業部門編】
  分析1: 受注単位になっている売上記録を、スタッフ単位に集計し直す
  分析2: 売上、採用時試験、ストレスチェックのデータを結合する
  分析3: 売上に影響する、スタッフごとの特徴を明らかにする
  報告: 成果を上げているのは、どんなスタッフか?
 case3: 情シスの手助けなしで、顧客行動の分析を行う 【マーケティング・EC部門】
  分析: ページ種別ごとのアクセス回数を、重回帰分析にかける
  報告: :どんな行動を取るユーザーの売上が大きいのか?
 case4: 画像処理機器の販売台数を予測する 【調達部門】
  分析1: 月ごとの特徴と過去の出荷台数を説明変数にする
  分析2: 月ごとのダミー変数と出荷台数で重回帰分析を行う
  分析3: 将来の出荷台数を予測する
  報告: どのくらいの在庫バッファを用意すれば、機会損失のリスクを抑えられるか?

第4章 【上級編】 進化したエクセル環境を活用して解析を効率化・高度化する
 進化した活用術 1: データ結合を効率化する
 進化した活用術 2: データマイニング機能を使った重回帰分析
 進化した活用術 3: 質的なアウトカムの分析を行うナイーブベイズ分類
 進化した活用術 4: アウトカムに影響を与えているパターンを分析する
 進化した活用術 5: 時系列分析をスピーディに行う
 進化した活用術 6: 分析結果のビジュアライゼーション

本書のまとめ
おわりに


著者プロフィール  

西内 啓(にしうち・ひろむ)
1981年生まれ。東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバード がん研究センター客員研究員を経て、現在はデータに基いて社会にイノベーションを起こすための様々なプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および戦略立案をコンサルティングする。著書に『コトラーが教えてくれたこと』(ぱる出版)、『サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている』(マイナビ新書)、『世界一やさしくわかる医療統計』(秀和システム)、『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

『1億人のための統計解析 』出版社の日経BP社のサイト

なぜ、統計学が最強の学問なのか? 『統計学が最強の学問である』ビジネス書大賞2014「大賞」受賞記念記事 (西内 啓、ダイヤモンドオンライン、2014年4月25日)


「1億人のための統計解析」(「日経ビジネスオンライン」の連載コラム)

仮説は最初に立てるな! (西内 啓、日経ビジネスオンライン、2014年3年25日)

分析の前に決めるべき3つのこと (西内 啓、日経ビジネスオンライン、2014年4年1日)

「顧客満足度」と「購買頻度」、どちらを上げる?  (西内 啓、日経ビジネスオンライン、2014年4年8日)

ソフトバンク時価総額2位の秘訣はデータ重視 マーケティング本部・岩本嘉子課長に聞く (西内 啓、日経ビジネスオンライン、2014年5月7日)



<ブログ内関連記事>

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ
・・因果関係よりも相関関係を重視するのが統計学の世界

映画 『マネーボール』 をみてきた-これはビジネスパーソンにとって見所の多い作品だ!
・・「メジャーリーグ球団のひとつ、カリフォルニア州北部にフランチャイズのあるオークランド・アスレティクス(Oakland Athletics)の GM(=ゼネラル・マネージャー)として球団経営に数字とロジックを持ち込んで、劇的な V字回復を果たした44歳の中年男の実話(ture story)に基づいた映画」

書評 『シゴトの渋滞学』(西成活裕、新潮文庫、2013)-数学者が数式をつかわずに書いた読みやすくて役に立つ実用書

「オックスフォード白熱教室」 (NHK・Eテレ)が面白い!-楽しみながら公開講座で数学を学んでみよう

書評 『コンピュータが仕事を奪う』(新井紀子、日本経済新聞出版社、2010)-現代社会になぜ数学が不可欠かを説明してくれる本
・・そういう時代に弱者とならないためにも、統計学の知識の習得と活用は現代人の「教養」となる

ビジネスパーソンに「教養」は絶対に不可欠!-歴史・哲学・宗教の素養は自分でものを考えるための基礎の基礎




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2014年5月8日木曜日

ディズニーの新作アニメ映画 『アナと雪の女王』(2013)の「日本語吹き替え版」は「製品ローカリゼーション」の鑑(かがみ)!


ディズニーの新作アニメ映画 『アナと雪の女王』(2013)の日本語吹き替え版は、「製品ローカリゼーション」の鑑(かがみ)ともいうべき存在です!

じつはこの連休の最初に、ディズニーの新作アニメ映画『アナと雪の女王』、「日本語吹き替え版」で見てきました。この「吹き替え」ということが、映像作品のローカリゼーション、つまりローカル市場における「現地化」なのです。

ハリウッド映画の日本語吹き替え版なんて見るのは「初体験」ですが、日本語吹き替え版を劇場で見たのは大正解でした。

ミッキーマウスやドナルドダックはもちろんのこと、『ピノキオの大冒険』『くまのプーさん』『ダンボ』『バンビ』『ピータパン』『101匹わんちゃん大行進』『白雪姫』『シンデレラ』などなど、ディズニーのアニメーションで育った世代なので、逆にディズニーというと子ども向けという先入観や固定観念ができあがってしまっていたのかもしれません。

しかし、考えてみれば、これらの作品はすべて日本語吹き替え版で見てきたのであり、子どもの頃はディズニーとかアメリカとかはいっさい気にすることなく見ていたわけですね。

しかもミュージカルですから、歌詞が聞き取れないのは致命的日本語吹き替え版はその点はまったく心配はいりません。わたしは、映画が始まってから字幕がでてこないので、ちょっと拍子抜けしてしまいましたが(笑)

姉のエルサの声を担当した松たか子の「ありのままで」もいいし、妹のアナの声を担当した神田沙也加の「生まれてはじめて」もいいですね~! 神田沙也加の声がアイドル時代の松田聖子そっくり!

日本のアニメも世界最高水準ですが、 さすが本家本元のディズニー、底力が違うなあ、と。ディズニーの伝統とピクサーの技術が合体した 「3Dコンピュータアニメーション・ミュージカル・ファンタジー映画」です。

なんといっても映像が美しい!圧倒的な美しさなのです。


各国語で歌われる「ありのままで」を合成したプロモーションビデオ)



日本語「吹き替え版」という「ローカリゼーション」(現地化)

『アナと雪の女王』は、ディズニー初のダブル・ヒロイン作品。『白雪姫』『シンデレラ』以来、ヒロインは一人という殻を破ったのも今回の特色のようです。しかもアンデルセンの原作そのものではなく、現代風の改作でもあるわけです。

オリジナルのタイトルは「凍りついた」という意味の『Frozen』(フローズン)。アンデルセンの原作が「雪の女王」なので、どうしても主人公は「雪の女王」と思いがちですが、かならずしもそうではありません。雪の女王のエルサに妹のアナを加えたのはディズニーによる改作のようです。



その意味では、日本語版のタイトルを『アナと雪の女王』としたのは大正解だといっていいでしょう。アナもまた主人公の一人であることを明確にしているからです。姉妹でキャラの違いがよく表現されてますので、姉のエルサと妹アナのどちらか、いや両方ともに感情移入することが可能になると思います。

日本語版では、姉の「雪の女王」エルサに松たか子を起用、妹のアナ王女に神田沙也加を採用。このキャスティングもまた大成功といえます。日本人なら、ちいさな子どもは別として、松たか子や神田沙也加がどういう存在であるかは、多かれ少なかれ知っているからです。

つまり、松たか子が歌舞伎役者の松本幸四郎の娘で、どちらかというと可愛らしい声でしゃべる女優であり、神田沙也加が歌手の松田聖子の娘であること。それぞれディズニーのこの作品においてもきわめて重要な要素である「ファミリー」(家族)というストーリー(物語)をもっているからです。

「生まれてはじめて」(For the first time in forever)という曲は、いかにもディズニーらしいバラード曲。古き良きディズニーの伝統を継承した、ファンンタジーにふさわしい、安心してなんども口ずさめる歌。これを一人娘だが、母親からみれば妹のような存在の沙也加が歌うのはふさわしいといえます。

これに対して、「ありのままで」(Let It Go)は、かなり現代的な内容の曲「自分らしく生きる」という自己肯定の内容は、女性だけに限らず現代人の生き方を示したもので、ディズニーのあたらしい面をみせてくれます。この曲を歌うのが、どちらかというと可愛い印象の松たか子が歌うからこそ、そのギャップが面白いのですね。姉の「雪の女王」の精神的葛藤をうまく表現できているので。


日本語版のポスターにみる「国民性」の違い

日本語版のポスターが醜い(!?)と表現している人が海外にはいるようですが、日本人的感覚とはちょっと違うものを感じますね。冒頭に掲載した者が日本版のポスターです。

趣味の違いといってしまえばそのとおりですが、日本人としてはとくに違和感は感じません。もちろん日本人でも受け取り方に違いはあるでしょう。

英語版のポスターは何種類もあります。「Frozen poster」で Google 検索してみるといいでしょう。
そのなかから2点ほど掲載しておきます。


オリジナルの英語版ポスターは、なんだか人形劇やパペットアニメーションのような印象をわたしはもってしまします。どうもリカちゃん人形というか、バービードール(?)みたい、というのが日本人の感覚ではないでしょうか。

たしかに映画のなかではひじょうになめらかでスムーズな動きがある一方、意図的なものがあるのでしょうがカクカクとした人工的な動きがあって、後者は人形劇のような動作に見えなくもありません。奥行きのある立体的な(・・つまり3Dも前提)アニメーションだからでもありますが。


とはいえ、よりナチュラルなものを好ましいとするのが日本人の感覚だといっても言い過ぎではないでしょう。女性のメイクアップでもナチュラルメイクを好むのが日本女性の傾向であることは一般に知られていることです。

このように、「国民性」というか「民族性」の違いというか、言語だけにも還元できない違いがあるからこそ、ローカリゼーション(現地化)が重要なのです。「グローバル化」の時代だからといっても、ローカル市場ではあくまでもローカル市場。ローカル市場ではローカルのあり方に徹しなければけっして売れることはありません。

日本語吹き替え版で見ていると、なんだか登場人物も日本人みたいな感じがしてくるのが不思議です。とくに妹のアナはブルーアイではありますが、なんとなくアジア人っぽい感じもします。日本でいう、いわゆる「アニメ顔」っぽい。

英語オリジナル版をYouTubeに投稿されているビデオクリップで見ると、いかにもアメリカっぽいなあという印象をもちます。耳から入ってくる音声によって、画像の視覚イメージも影響を受けるのかもしれません。

そういえば、子どもの頃は吹き替え版のディズニーがアメリカのものだとは知らなかったなあ、と思い出します。いまでも、ちいさな子どもは、そんなものでしょう。

ディズニーのような全世界にむけてコンテンツを製作し、流通させてきた「グローバル企業」においてはは、ローカリゼーションの歴史は長く、ノウハウもそうとう蓄積されているといっていいいでしょう。

しかしそんなディズニーにとっても今回の作品は、「愛」という普遍的なテーマを、設定はファンタジーでありながら現代風にアレンジした世界を表現しており、新境地を拓いたといえるかもしれません。


英語版と日本語版は違う作品として鑑賞も可能

英語版は劇場で見たわけではありませんが、YouTube でディズニーが公開しているビデオクリップを視聴した限りでは、オリジナルの英語版と日本語吹き替え版は別の作品として鑑賞することも可能ではないかと思います。

基本的に英語版のセリフはかなり忠実に、しかも登場人物の動きにあわせた適切なシラブルの日本語になっていますが、そうはいっても英語と日本語とではニュアンスの違いがないわけではありません。

松たか子が歌う挿入歌の「ありのままで」は「Let It Go」の日本語版ですが、英語の "let it go" と「ありのまま」は意味としてはイコールでありません

英語の "let it go" は、内側から外に向けて「放出」するというニュアンスが強いのに対して、日本語の「ありのままで」は自己肯定であり現状肯定というニュアンスが強い。あえて英語でいえば、むしろ "let it be" に近いのですね。日本女性にとっては後者の「ありのままで」のほうが、メッセージ性が強いと判断したのかもしれません。

じつは、英語の "let it go" という表現は、この作品のカギとなる表現なのです。英語の "it" が指しているのは、「自分の気持ち」もその対象ですが、「魔法」もまた"let it go"するものだからです。姉の雪の女王エルサにとって、「魔法を解き放つ」ことと「自分を解き放って自分になる」ことと同じなのです。

Disney's Frozen "Party Is Over" Clip (Walt Disney Animation Studios)に、エルサの魔法が解放されてしまうシーンがあるので参考まで。なお、sorcery とは魔術のことです。悪しき目的に使う黒魔術のことです。いわゆるマジック(magic) とは意味合いが異なります。

そう考えると、日本語版では「ありのままで」という歌詞にしたのは、英語版とは別の作品として楽しんだらいいということもであるわけです。ニュアンスの違いは意外と大きいのです。

YouTube で英語版のさわりを視聴してみると、さすが基本的に「子ども向け」でもあるので、スラングもなく、クリアできれいな口語体の標準アメリカ英語。むずかしいコトバもいっさいないので、これなら生きた英語の教材としても最高でしょう! 

英語版と日本語版はどちらも甲乙つけがたいですが、わたしは神田沙也加によるアナの歌声が好きです。

まだ見てない人は、だまされたと思って絶対に見ることを薦めますよ! まずは「日本語吹き替え版」で!








<関連サイト>

ディズニー公式サイト (日本語)

『アナと雪の女王』公式サイト (日本語)

『Let It Go』が『ありのままで』と訳された理由(The Page、2014年5月3日)
・・「吹き替えの監修を行っているのが、ディズニー・キャラクター・ヴォイス・インターナショナル(DCVI)だ。DCVIは1991年に設立され、これまでにも『美女と野獣』、『アラジン』、『ライオン・キング』といった人気映画のローカリゼーションをサポートしている。世界中の17カ国にオフィスを持ち、55か国語もの吹き替えを行っており、今回の『Let It Go』の大ヒットの影の立役者とも言える」

Disney Character Voices International - DisneyWiki

大人気の『アナ雪』、怒涛の多面展開へ 来春、東京ディズニーランドもアナ雪に染まる (東洋経済オンライン、2014年8月23日)



<ビデオクリップ集>

『アナと雪の女王』予告編 (YouTube ディズニーチャンネル disneyjp)
・・この「予告編」の段階では、まだ歌はオリジナルの英語版のまま

Disney's Frozen "First Time in Forever" Trailer (英語オリジナル版トレーラー 2013年10月)
・・日本語版との微妙な違いとは? さすがに子ども向けでもあるので、英語はスラングもなく明快で聞き取りやすい

Disney's Frozen Holiday Trailer  (英語オリジナル版トレーラー 2013年12月) ・・こちらは Let It Go バージョンのトレーラー

Disney's Frozen Official Trailer  (英語オリジナル版トレーラー 2013年9月)
・・これがオフィシャル・トレーラー

『アナと雪の女王』「Let It Go」(25ヵ国語Ver.)
・・世界中でもっとも美しいという賞賛の声のあがる松たか子が歌うエルサ(1分13秒前後)。日本語の母音の響きが美しい

一緒に歌おう♪『アナと雪の女王』「Let It Go<歌詞付Ver.>」 松たか子 (YouTube ディズニーチャンネル disneyjp)

一緒に歌おう♪『アナと雪の女王』「Let It Go<歌詞付Ver.>」 イディ・メンゼル(オリジナル英語版)   (YouTube ディズニーチャンネル disneyjp)

『アナと雪の女王』♪生まれてはじめて/アナ(神田沙也加) (YouTube ディズニーチャンネル disneyjp)
・・神田沙也加の声は母親の松田聖子そっくり!

『アナと雪の女王』♪生まれてはじめて / アナ(神田沙也加)&エルサ(松たか子) (YouTube ディズニーチャンネル disneyjp)

『アナと雪の女王』クリップ映像:チョコレート! (YouTube ディズニーチャンネル disneyjp)

ディズニーが YouTube で公開しているこのクリップ
Disney's Frozen - "Elsa's Palace" Extended Scene (Walt Disney Animation Studios)
(アナが氷の宮殿でエルサと対面するシーン)


<歌詞の比較>


「ありのままで」(Let it go)
Idina Menzel - Let It Go Lyrics

The snow glows white on the mountain tonight
Not a footprint to be seen.
A kingdom of isolation,
and it looks like I'm the Queen
The wind is howling like this swirling storm inside
Couldn't keep it in;
Heaven knows I've tried
Don't let them in,
don't let them see
Be the good girl you always have to be
Conceal, don't feel,
don't let them know
Well now they know
Let it go, let it go
Can't hold it back anymore
Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don't care
what they're going to say
Let the storm rage on.
The cold never bothered me anyway
It's funny how some distance
Makes everything seem small
And the fears that once controlled me
Can't get to me at all
It's time to see what I can do
To test the limits and break through
No right, no wrong, no rules for me,
I'm free!
Let it go, let it go
I am one with the wind and sky
Let it go, let it go
You'll never see me cry
Here I stand
And here I'll stay
Let the storm rage on
My power flurries through the air into the ground
My soul is spiraling in frozen fractals all around
And one thought crystallizes like an icy blast
I'm never going back, the past is in the past
Let it go, let it go
And I'll rise like the break of dawn
Let it go, let it go
That perfect girl is gone
Here I stand
In the light of day
Let the storm rage on
The cold never bothered me anyway!



「ありのままで」

降り始めた雪は 足跡消して
真っ白な世界に一人の私
風が心にささやくの
このままじゃだめなんだと
戸惑い傷つき
誰にも打ち明けずに
悩んでたそれももう
やめよう
ありのままの 姿見せるのよ
ありのままの 自分になるの
何も恐くない
風よ吹け
少しも寒くないわ
悩んでたことが嘘みたいね
だってもう自由よ
何でも出来る
どこまでやれるか
自分を試したいの
そうよ変わるのよ 私
ありのままで 空へ風に乗って
ありのままで 飛び出してみるよ
二度と涙は 流さないわ
冷たく大地を包み込み
高く舞い上がる思い出描いて
花咲く氷の結晶のように
輝いていたい
もう決めたの
これでいいの
自分を好きになって
これでいいの
自分を信じて
光浴びながら
歩き出そう
少しも寒くないわ




<ブログ内関連記事>

ローカリゼーションは海外市場攻略の要(かなめ)

書評 『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか-世界で売れる商品の異文化対応力-』(安西洋之、中林鉄太郎、日経BP社、2011)-日本製品とサービスを海外市場で売るために必要な考え方とは?
・・「ローカリゼーション」にかんする必読書

プラクティカルな観点から日本語に敏感になる-藤田田(ふじた・でん)の「マクド」・「ナルド」を見よ!
・・日本マクドナルド創業者の藤田田は原音に近い「マクダーノー」では日本では成功しないと確信していた

「MOOMIN!ムーミン展-トーベ・ヤンソン生誕100周年記念-」(松屋銀座)にいってきた(2014年4月23日)
・・原作の hattifnattarna を「ニョロニョロ」という名前に変えなかったなら、日本製アニメ 『ムーミン』の日本での大成功はあり得なかっただろう。スナフキンも原語のスウェーデン語とはイコールではない!

小倉千加子の 『松田聖子論』 の文庫版に「増補版」がでた-松田聖子が30年以上走り続けることのできる秘密はどこにあるのか?
・・アナの日本語版吹き替えを担当した神田沙也加は松田聖子の娘


あえてローカリゼーションしないという方法

由紀さおり世界デビューをどう捉えるか?-「偶然」を活かしきった「意図せざる海外進出」の事例として・・日本語と音楽の関係について


ミュージカル映画

『中島みゆき 「夜会VOL.17 2/2」 劇場版』 (2011年11月)をイオンシネマでみてきた(11月9日)-これは日本語による魂のセラピーなのだ

ミュージカル映画 『レ・ミゼラブル』を観てきた(2013年2月9日)-ミュージカル映画は映画館で観るに限る!
・・これは吹き替え版ではなく英語。原作はフランス語だがミュージカル版は英語。

なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?
・・ハリウッドのミュージカル映画の古典。アメリカ人の深層意識に存在する作品

ボリウッド映画 『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(インド、2007)を見てきた  ・・インド映画はみな、ある意味でミュージカル。しかも、歌って踊るシーンに観客も参加する「体験型」だ


ディズニーの『アナ雪』の原作アンデルセン童話

「ふなばしアンデルセン公園」にはじめて行ってみた(2014年4月6日)-デンマーク王国オーデンセ市と千葉県船橋市が姉妹都市となって25年
・・原作の「雪の女王」はアンデルセンの童話作品


メガヒット映画

映画 『アバター』(AVATAR)は、技術面のアカデミー賞3部門受賞だけでいいのだろうか?
・・2010年日本公開の洋画では 『アバター』が興行収入100億円を超えたのが50日目であるのに対し、『アナと雪の女王』は37日目で達成。アメリカを除けば日本が全世界で一位の興行収入、公開54日でついに『アバター』を超えた。動員1,000万人超えも達成

(2014年8月29日 情報追加)


PS 『アナ雪』のDVDセールスが200万枚突破! 

2014年8月18日付のオリコン週間映像ランキングで累計202万5千枚を記録。売り上げ200万枚突破は2002年の『千と千尋の神隠し』についで歴代2位だという。ランキング登場4週目での200万枚突破は史上最速とのこと。(2014年8月13日 記す)。




(2012年7月3日発売の拙著です)





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2014年5月7日水曜日

ディエン・ビエン・フー要塞陥落(1954年5月7日)から60年-ヴォー・グエンザップ将軍のゲリラ戦に学ぶ


本日は、ディエン・ビエン・フー要塞陥落(1954年5月7日)から60年

「第一次インドシナ戦争」でフランスが大敗を喫した戦いです。この日から約5ヶ月後に、フランスはベトナムから完全に撤退することになったわけです。

ディエン・ビエン・フーはラオス国境に近い山岳地帯。フランス軍は「外人部隊」が中心だったようですが、かなり過酷な戦いであったようですね。3万人の将兵のうち2千人以上が戦死し、1万人が捕虜となった、と。

(Aがディエン・ビエン・フー ラオス国境に近い その東がハノイ)


この『人民の戦争・人民の軍隊-ヴェトナム人民軍の戦略・戦術-』(中公文庫BIBLIO、2002)という本は、ディエン・ビエン・フー要塞陥落に導いた「赤いナポレオン」と呼ばれたベトミンヴォー・グエン・ザップ将軍の著書。

第5章が「ディエン・ビエン・フー」にあてられてます。第6章「勝利への道」と内容的には重なります。



(ディエン・ビエン・フーの攻略 『人民の戦争・人民の軍隊』より)


「強ければかわし 弱ければ攻める」というフレーズは、まさにゲリラ戦の神髄。「小」がいかにして圧倒的な「大」を倒すかというテーマは、ビジネスにも示唆するところがきわめて大でありますね。

ベトナム戦争というと、どうしてもアメリカという連想でしょうが、植民地の支配者として君臨してきたフランスが撤退したあとに本格的に介入したのがアメリカでした。本格的な介入を決めたのがケネディ大統領であったことはアタマのなかにいれておきたいもの。

グエン・ザップ将軍は昨年92歳で亡くなりました。ゲリラ戦の指導者というとチェ・ゲバラが有名ですが、アジア人としては毛沢東とともにヴォー・グエン・ザップの名前も記憶しておきたいものです。

戦略・戦術というものは、イデオロギーとは関係なく考え抜けば応用可能。つまらないビジネス書より戦争もののほうが面白いのはそのためですね。




目 次

第1章 人民の戦争・人民の軍隊
第2章 党は武装蜂起の準備と一九四五年八月の総蜂起を成功裏に指導した
第3章 党はフランス帝国主義者とアメリカ帝国主義者との長期抵抗戦争を成功へと導く
第4章 党は人民の革命軍の建設を成功裏に指導した

第5章 ディエン・ビエン・フー 
 1. 1953年冬季・1954年春季における軍事概況の要約
 2. 戦略の指導
 3. ディエン・ビエン・フーにおける作戦指導
 4. 戦術上の諸問題
 5. 軍の指揮
 6. 前線役務に従事する人民
 7. 解放戦争とはディエン・ビエン・フーにおける戦い
第6章 勝利への道 
 1. 1953年夏季における軍事概況
 2. 敵のあらたな陰謀「ナヴァール計画」
 3. 1953年冬季・1954年春季における計画と軍事概況
 4. 歴史的ディエン・ビエン・フー作戦
注釈
訳者あとがき
地図
解説 神浦元彰


著者プロフィール  

ヴォー・グエン・ザップ(Võ Nguyên Giáp)
1911~2013。ヴェトナム北部の広平省に生まれる。1926、27年フエ市内の学校ストライキに参加する過程で反仏運動に加わる。32年頃からハノイのリセでフランス史の講師。40年6月ファム・バン・ドンと雲南に脱出、昆明でホー・チ・ミンに出会う。44年に武装宣伝解放軍を作り、ヴェトナム人民軍の基礎を創設。八月革命後のインドシナ戦争においては、同軍最高司令官としてディエン・ビエン・フー作戦など数々の戦いを指揮。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。

翻訳者プロフィール

真保潤一郎
1923年東京生まれ。42年、陸軍士官学校卒。従軍、抑留、追放を経て、専修大学経済学部、法学部卒。出版社勤務後、高崎経済大学、大東文化大学を経て、一橋大学社会学博士、高崎経済大学名誉教授。現在、長崎国際大学教授 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

三宅蕗子
東京生まれ。外資系企業に勤務後、群馬女子短期大学助教授を経て教授(2001年退職)。青山学院大学大学院経営学修士。東洋大学大学院社会学研究科博士課程中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




<ブログ内関連記事>

Winning is NOT everything, but losing is NOTHING ! (勝てばいいいというものではない、だけど負けたらおしまいだ)
・・「勝たなくてもいい、負けなければいいのだ」というベトコンの戦略方針

ベトナムのカトリック教会

Vietnam - Tahiti - Paris (ベトナム - タヒチ - パリ)

シハヌーク前カンボジア国王逝去 享年89歳(2012年10月15日)-そしてまた東南アジアの歴史の生き証人が一人去った
・・ベトナムにラオスとカンボジアを加えた三カ国が「仏領インドシナ」と呼ばれていたフランスの植民地であった。このなかではベトナムがフランスにとってはいちばん儲かる存在であった

『東南アジア紀行 上下』(梅棹忠夫、中公文庫、1979 単行本初版 1964) は、"移動図書館" 実行の成果!-梅棹式 "アタマの引き出し" の作り方の実践でもある
・・「ベトナム人は勤勉で、エネルギッシュである。勤勉という点では、わたしの見たかぎりでの東南アジアの諸民族の中では、ベトナム人が一ばんである」(第15章)




(2012年7月3日発売の拙著です)





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