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2011年10月31日月曜日

神田・神保町の古書店街もまた日本が世界に誇る「クラスター」(集積地帯)である!


 「神保町(じんぼうちょう)ブックフェスティバル」にいってきました。

 「神田古本市」と同時開催のイベントです。こちらのほうが風情があっていいですね。「神田古本市」も、高校時代から通いはじめて、はや30年近くになるでしょうか?

 ネット古書店を利用するようになってから、とくに amazon のマーケットプレイスを利用してで古本を買うようになってからは、リアルの古書店の店舗にはあまりいかなくなっているのですが、一年に一回のこの催しにはどうしても足が向いてしまいます。それだけ魅力的なコンテンツがあって集客力のある「世界最大の古書店街」のイベントなのです。

 日本ではこの神保町以外にも、とくに大学と学問の街である京都には古書店が集積しています。

 日本の神保町や京都以外にも、世界には古書の町をウリにしたものが英国やベルギーにもあるようですね。残念ながらわたしはまだ一度も訪れたことがないのですが。


神田・神保町は「世界最大の古書の一大集積地帯」

 神田・神保町は「世界最大の古書の一大集積地帯」です。ビジネス用語でいえば「クラスター」(cluster)です。

 産業集積や商業集積のことを指しています。ぶどうのふさ(cluster)からきたコトバです。つぶつぶがたくさん集まって一房のぶどうになるという比喩的な表現です。

 クラスターでもっとも有名なものといえば、IT関連の産業集積シリコンバレーをあげることができるでしょう。東海岸のハーバード大学や MIT(マサチューセッツ工科大学)に匹敵する、理工系を中心にした私立大学であるスタンフォード大学周辺に形成されたものですね。

 狭い地域に集積していると、なんといってもフェイス・トゥーフェイスのコミュニケーションが可能になるので、ネットワーキングを作り出したり、アイディアを生み出したり、集積効果は相乗効果として活発化します。

 日本でもITブームの頃、渋谷を中心にしたビットバレーというものがさかんにメディアに登場していました。このほかファッションでいえば原宿、アニメ製作の練馬など、数々のクラスターが存在します。

 あるいは、東京の大田区や東大阪の中小企業の集積地帯をあげるべきかもしれません、しかし、残念ながらものづくりの海外シフトとともに、かつての勢いが失われてしまったようですが。

 話を神保町にもどせば、古書店主の高齢化にともなって廃業する店舗もでているようですが、いっぽうでは若い人たちが斬新なコンセプトであたらしく出店するケースも増えているようですね。やはり、狭い地域に同業者が密集している集積効果のメリットは代え難いものがあるようです。

 かつては電気街だった秋葉原もまた、近年はアキバとしてオタクの聖地として、日本国内だけでなく全世界から人が集まるようになっています。

 中身は変化しながらもクラスターとしては、新陳代謝をつづけながら生き続ける神保町は、秋葉原とならんで興味深い事例です。

 もちろん、神保町も秋葉原も、世界に誇る日本の至宝ですね。


<関連サイト>

第52回 神田古本市(公式サイト)

神保町の古書店街クラスター形成の歴史は、経営史家・脇村義太郎の 『東西書肆街考』(岩波新書、1979) に詳述されています。




<関連サイト>

再び起きた生産停止の教訓-米ハーバード大学の専門家が語る今後の展望(日経ビジネスオンライン)
・・タイの大洪水によるサプライチェーン問題について、産業集積(クラスター)のもつリスクについて指摘されているので、ぜひ参照されたい。 (2011年11月1日 追記)


<ブログ内関連記事>

原点としての 「HPウェイ」 -創業者の理念は度重なる経営者の交代でも生き続けているのだろうか?
・・シリコンバレー草創期のベンチャーがHP(ヒューレット・パッカード)




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2011年10月27日木曜日

「投資熱高まるカンボジアの可能性を探る」(大メコン圏ビジネス研究会・日本商工会議所)の勉強会に参加


 「投資熱高まるカンボジアの可能性を探る」(大メコン圏ビジネス研究会・日本商工会議所)の勉強会に参加してきました。

 どうやら、カンボジア投資熱は、日本でも本格的なものになりつつあるようですね。

 「日本では」とここで書いたのは、カンボジアへの投資ランキング1位の中国と比べると、日本は12位で、しかも投資実績は中国の約3%弱の2.1億ドル(*注:1994年から2011年までの17年間累計投資額)にすぎないからです。

■日時:2011年10月26日(火)10:00~12:00
■場所:東京商工会議所ビル7階「国際会議場」
    (東京都千代田区丸の内3-2-2)
■内容:
 ①「カンボジアの経済・投資政策について」(駐日カンボジア王国特命全権大使 ホー・モニロット閣下
・・英語)
 ②「カンボジアの経済・投資環境について」(駐日カンボジア王国大使館 一等書記官 シム・ヴィリャ 氏・・日本語)
③「日系企業のカンボジアへの投資状況について」(日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部アジア大洋州課 課長 若松勇 氏
④「日系企業の進出事例紹介」(ミネベア株式会社 代表取締役・社長執行役員 貝沼由久氏)


 全般の投資環境については、ジェトロによるものも含めて公的な話なので、マクロ経済データの話が中心となります。これらのデータについては、国際機関アセアンセンター外務省のウェブサイトで、カンボジア王国の項目を参照していただきたいと思います。

 とくに隣国のタイと比べると、カンボジアは外資に対する制限がほとんどなく、100%での進出が可能です。

 タイの場合は、商法上の原則としては外資比率は49%以下と決まっており、BOI(タイ投資委員会)の許認可をとれれば製造業は100%外資も可能ですが、流通業にかんしては現在でも国内中小企業保護のため認められていません。カンボジアでは、流通業でも外資100%が可能です。

 じっさいにプノンペンにいってみればわかりますが、現在は平和になっただけでなく、高層ビルの建設ラシュが続いており、隔世の感があるといっても言い過ぎではありません。

 企業進出をともなう直接投資(FDI)にかんしていえば、なんといっても、ミネベアが本格的に進出したというニュースは、まさにビッグニュースといってよいでしょう。2011年 月に投資の許認可を得て急ピッチで工場を建設し、今年2012年4月からすでに操業を開始したとのことです。

 これにくわえて、アジアでも活発に活動している小売流通業のイオンが、首都プノンペンに数店舗の出店を検討しており、現在カンボジア政府に投資許可の申請中というのも朗報です。一日も早く許認可がおりるのが待ち遠しいですね。

 さて、ミネベアにかんしては、なんと社長みずからのプレセンテーションがあり、当事者ならではの指摘もいくつかありましたので、かいつまんでご紹介いたします。

-タイではすでに工場は5つ操業しているが、人件費高騰もあり周辺諸国に進出を検討
-ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーのうち、ミャンマーは欧米による経済制裁がまだ解除されていないのではずした
-ミネベアは原則として工業団地には進出しないポリシーだが、カンボジアではPPSEZ(プノンペン特別経済区)に進出
カンボジアは現状では繊維産業が中心なので、知名度のなさもあって、ワーカーを集めるのに苦労した
電力コストはタイの2倍物流コストはタイの4倍

 もちろん、豊富な海外経験をもつミネベアのような会社だからこそ、カンボジアに進出を決定したということもあるでしょう。

 中堅中小企業が、いちばん最初の進出先をカンボジアにするのは、おすすめではありません人件費だけに目をくれず、物流費やその他関連コストも十分に考慮にいれてトータルで検討していただきたいものと思います。

 そのためには、まずはインドシナ半島であれば、いま洪水問題のまっただなかではありますが、ビジネスインフラのことを考えればまずはタイを考えるべきでしょう。

 カンボジア投資は、あくまでも「タイ+1」あるいは「ベトナム+1」と考えるのが、理にかなったものだろいえると思います。



<関連サイト>

国際機関アセアンセンターの国別情報カンボジア

外務省のウェブサイトの国別情報カンボジア王国

カンボジアで、小型モーター新工場の起工式を実施-製造拠点の分散・多元化により、安定した生産体制を構築-(ミネベア プレスリリース 2011年5月24日)

カンボジアへ先を競う大企業、1番手は味の素工場建設を決めたミネベア、社長が電撃訪問した日本電産(JBPress 2011年11月1日)

4年にカンボジア1号店:イオン、プノンペンに(NNA)(2011年11月10日)
・・イオンは2011年11月9日、2014年をめどにカンボジアにショッピングモール1号店を開設すると発表


<ブログ内関連記事>

「カンボジア投資セミナー」 (国際機関日本アセアンセンター)が、2011年6月2日(木)に開催 (入場無料)





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2011年10月26日水曜日

バンコクへの渡航は自粛を!-タイの大洪水と今後の製造業立地の方向性について


 タイを襲っている大洪水の影響で「BOI FAIR 2011」が来年1月に延期されました。会場であるインパクト・アリーナはまさにバンコク近郊、洪水被害にさらされています。

 これにともない、「タイビジネスミッション 2011年11月」 (BOI:タイ投資委員会主催)も延期となることが正式決定となりました。まずは、お知らせとさせていただきます。

 タイの大洪水ですが、報道によれば、水が引くのに最低4~6週間かかるとタイ政府が表明しているようですが、実際にはさらに長引く可能性もあります。

 日本の国土交通省の水災害・リスクマネジメント国際センターによるシミュレーションでは、11月末まで水が引かないとの結果もでています。タイ・チャオプラヤ川の洪水についてを参照。

 日本の外務省は、10月24日に「タイに対する渡航情報(危険情報)の発出」を出しました。

●首都バンコク
「渡航の是非を検討してください。」(不要不急の目的で滞在されている方は、事情が許せば、早めに国外への出国を含め安全な場所の確保を検討してください。)(引き上げ)


(追記)10月27日に「渡航情報(危険情報)」が引き上げられた
●首都バンコク
「渡航の延期をお勧めします。」(業務等の必要性があってやむをえず渡航される方は、洪水被害に巻き込まれることのないよう適切な安全対策を講じてください。また、既に滞在中の方は、事情が許す限り、早めに国外への出国を含め安全な場所の確保若しくは安全な場所への移動を検討してください。)(引き上げ)

 首都バンコクにかんしても、「危険情報」が4段階の上から3番目となる「渡航の是非を検討してください」に引き上げられました。すでに駐在員の家族の日本一時帰国が本格化しています。バンコクへの不要不急の渡航は「自粛」してください! 汚染された水によって、衛生状態も悪化する可能性もあります。

 タイ政府は、10月27日から31日までの5日間を「特別休日」にして、タイ国民に対して、首都バンコクからの避難を促しています。



今回の大洪水でバンコクという都市の脆弱性がモロに露呈



 上記の地図は、『新詳高等地図』(帝国書院)からコピーしたものです。

 チャオプラヤ川(・・日本人がメナム川と呼ぶ川の正式名称)の蛇行する下流域で、砂州のデルタ地帯に形成されたバンコクはそもそも地盤が弱いのいです。

 バンコク周辺で、チャオプラヤ川がひじょうに蛇行していることに注目してください。こういうときに役に立つのが、中学や高校で学習しているはずの地学の知識です。大規模河川の蛇行状況からみると、自ずから水害被害がひろがることがわかると思います。

 チャオプラヤ川上流の古都アユタヤに立地する工業団地が、次から次へと水没した今回の大水害は、これまでの「バンコク内乱」(2010年)や「クーデター」(2008年)とは性格がまったく異なります。バンコクで争乱があっても、郊外や地方の工業団地では business as usual(ビジネスはいつもどおり順調)だったからです。

 ところが、今回の大水害、おそらく地球温暖化の影響だと考えられますが、例年であれば雨期の末期の大雨による洪水被害も、アユタヤで水は食い止められて危うく難を逃れるということが続いていました。今回の大洪水は、まさに50年に一回という規模のものです。

 バンコクは、かつて中国の蘇州とならんで「東洋のベニス」と呼ばれたように、イタリアのヴェネツィア(=ベニス)とよく似た都市です。

 チャオプラヤ川のデルタ地帯の砂州にできたバンコクは、比較的に歴史のあたらしい都市で、運河が縦横に張り巡らされた水運都市でした。現在では、東京と同様に運河の大半は埋め立てられてますが、この点からいっても地盤がきわめて弱く、日本人が多く住むスクンヴィット地区は毎年のように水がでる状態です。
 
 都市インフラの面でも、東京など日本の都市よりも、はるかに劣っていることに注意する必要があります。上流から流れてくる肥沃な土地が稲作に好都合だった農業国ではなく、すでに工業立国となっているのですから。


大洪水後のタイについてどう考えるか

 完全な復旧には時間がかかりそうです。機械類が水没しているだけでなく、工場再開に際してワーカーの確保が難しくなる可能性があるためです。避難のため田舎に疎開したワーカーたちのすべてが戻ってこないかもしれません。

 すでに、世界第2位の生産高となている HDD(ハードディスクドライブ)にかんしては、米国メーカーが中国に製造機能を戻したり、日本企業でも、タイ国内やタイ以外の国や地域で生産代替する動きも加速してくるでしょう。

 「3-11」でサプライチェーンが麻痺し、ようやく復旧してきた矢先にタイの大洪水。まさに「踏んだり蹴ったり」の状況、「泣きっ面に蜂」とはこのことですね。

 とはいえ、すでに日本の製造業の製造拠点であるタイにとってかわる国や地域が、すぐにでてくるとは考えにくいひきつづき、タイが日本企業の製造拠点であり続けることでしょう。

 ありとあらゆる産業が集積し、ロジスティクスの観点からいって、なによりも交通の要衝であるという点が大いに評価されるところです。現時点では、あたらしい国際空港であるスワンナプーム空港は閉鎖されていません。ドンムアン空港は浸水のため閉鎖されていますが。

 今後はタイ国内だけではなく、周辺諸国も含めたリスク分散が不可欠になってきますが、悩ましいのは洪水はタイだけではなく、日本であまり報道されていないだけで、カンボジアもミャンマーもベトナムも同様に洪水被害が発生していることです。たとえば、ベトナムのハノイは漢字で書くと「河内」となるように、もともと水害の多い地域なのです。

 自然災害のリスクは世界中どこにいってもつきまとってくるもの。リスクを最小限にし、何かあった場合はすぐに復旧できるための BCP を織り込んだ事業計画が中堅中小企業レベルでも不可欠のものになると考えます。

 とかく目先のコスト削減に目を奪われがちですが、この点についても考慮に入れるべきだと、口を酸っぱくしても強調したいことであります。



<関連記事>

【タイ政治社会の潮流】大洪水:工業化の落とし穴(大阪外国語大学名誉教授・赤木攻)
・・「今、やっと「洪水は日照りより悪い」に変わりつつある。それは、タイ社会が農業立国から工業立国に変わったことを意味している」

2011年タイ洪水関連情報(東京大学生産技術研究所 沖研究室ウェブサイト)
・・幅広い観点から水循環、水資源について研究している。2011年11月4日から10日にかけてタイで現地調査を行い、調査結果は随時アップするとのこと。有用な情報です。

NHKクローズアップ現代 「タイ大洪水 苦悩する日系企業」(2011年10月24日放送)・・動画あり(約9分)

WorldTopics◆タイ 洪水で企業活動に影響(2011年11月5日)(ジェトロ 世界はいま)


<ブログ内関連記事>

タイのあれこれ (21) バンコク以外からタイに入国する方法-危機対応時のロジスティクスについての体験と考察-

「バンコク騒乱」について-アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性

製造業ネットワークにおける 「システミック・リスク」 について

「不可抗力」について-アイスランドの火山噴火にともなう欧州各国の空港閉鎖について考える

「タイビジネスミッション 2011年11月」 (BOI:タイ投資委員会主催)のご案内




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2011年10月24日月曜日

NHKスペシャル 「“中国人ボス”がやってきた-密着 レナウンの400日」(2011年10月23日) を見ましたか?



 昨夜(10月23日)21時から放送された 「NHKスペシャル “中国人ボス”がやってきた-密着 レナウンの400日-」を見ましたか?

 ビジネスパーソン必見の番組でしたね。中国企業によって買収される日本企業が増えているなか、いつそうなるとも限らないですから。得るものの多い、面白い番組でした。

 好き嫌いや、いい悪いにかかわらず、「資本の論理」は簡単に国境を越えてしまうものです。株主が欧米系の投資家であるか、アラブ系であるか、中国系であるかにかかわらず、企業経営においては「資本の論理」が貫徹することは言うまでもありません。

 ですから、あたらしいオーナーが中国企業になるケースも、今回の番組で取り上げられたレナウンや家電量販店のラオックスなどに限らず、中堅中小企業でも、今後ますます増えてくることでしょう。外資系企業というと欧米系という固定観念はもう捨てた方がいいのかもしれません。

 しかし、カネと違ってヒトというものは、そう簡単に国境を越えられるものじゃないですね。とくにアタマの中身であるマインドセットを変えるのはじつに難しい

 番組でも、当事者のレナウンの中国駐在の方々の苦労は手に取るように理解できましたが、日本企業としてということではなく、企業として、いや何よりもビジネスパーソンとして生き残るためには、マインドセットを切り替えていることが不可欠であることがよく描かれていました。見ていて、「ああ、たいへんだな~」と身にしみて感じてましたが。  

 日本人と中国人では、発想がまったく違いますから、その意味でも、お互いがホンネでぶつかりあった400日は意味があるものだったといっていいのでしょう。

 また、経営者の決断というものも、よく描かれていたように思います。中国側のトップダウン経営のスピード重視の姿勢日本で成功してきたセオリーどおりにはいかない中国市場の現実。オーナー企業の山東如意の会長が国営企業を俊敏な民間企業に添加させた実力者であるだけに説得力がありました。

 興味深いのは、中国側がレナウンのブランドではなく、ノウハウを買ったということです。日本では知名度の高いレナウンという企業ブランドも、中国ではまったく無名に等しいという厳しい現実。この事実を前提にすべてを考えなければならない。しかし、一方では日本におけるブランド価値を損ねたくないというジレンマ。

 ファッション業界の人間ではないですが、ブランド・マネジメントにかかわっていたわたしにとっては、その意味でも面白い番組でした。

 ブランド・マネジメントにかんしては、レナウン側の人間の言っていることが正しいのですが、中国側のスピード重視の姿勢、これまた競争の激しい状況では無視できません面で押さえてこうという戦略発想も興味深く感じました。それにしても、番組にでてきた韓国の E.LAND というアパレル企業のスピード経営には驚かされます。

 ただ、番組では説明されていませんでしたが、2010年5月に、中国の山東如意は40億円出資して41%強の持ち株比率で筆頭株主になりましたが、その山東如意に日本の総合商社・伊藤忠が2011年8月には30%出資、結果として伊藤忠がレナウンの12%オーナーとなりました。「資本の論理」というのはこういうもの、そう一筋縄でいくものではないですね。ただし、経営者にとっての意味と、従業員にとっての意味は大きく異なります。 

 このように働く人間の意向とは関係なく「資本の論理」は動き続けるものです。

 ヒトが、いやおうなくカネに振り回されるのは仕方ないとあきらめ、ビジネスパーソンである以上は、スピード重視で自ら変化しつづけるとことが大事だという教訓でしょうか。

 この点は、経営者もそれ以外のビジネスパーソンも同じ条件下にあるといっていいでしょう。


P.S. 番組を見逃したかたは、再放送は、2011年10月27日(木)午前0時15分~1時04分 NHK総合(26日深夜)ですので、今度こそお見逃しなく。 (2011年10月25日 追記)



<関連サイト>

レナウン(公式サイト)

山東如意集団(シャンドン・ルーイー 公式サイト)

E・LAND(韓国アパレル企業 公式サイト)


<ブログ内関連記事>

なぜ「経営現地化」が必要か?-欧米の多国籍企業の歴史に学ぶ

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)

『グローバル仕事術-ニッポン式ビジネスを変える-』 (山本 昇、明治書院、2008) で知る、グローバル企業においての「ボス」とのつきあい方

「個人と組織」の関係-「西欧型個人主義」 ではない 「アジア型個人主義」 をまずは理解することが重要!




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2011年10月15日土曜日

コトバの壁を越えて MVV は共有できてますか?-オリンパスの外国人社長解任に思うこと


              
 オリンパスで、半年前に就任したばかりの外国人社長を解任したというニュースが昨日(10月14日)話題になりました。

 解任した側の取締役会と、解任された英国人の元社長との見解が大きくかけ離れており、どちらが正しいのか、部外者にはよくわかりません。

 したがって、解任劇については立ち入りませんが、「経営と文化」という観点からこの事例を考えてみたいと思います。

 解任についてはいろんな記事がありますが、ここでは産経新聞の記事を見てみましょう。「オリンパス社長解任劇 「文化の違い」株価急落」というタイトルの記事です。

企業が外国人幹部登用に消極的な理由の一つは、オリンパスでみられたような商習慣や文化の違いで、菊川剛会長も「企業風土や経営スタイル、日本の文化を理解してもらえなかった」と語る。
・・(中略)・・
瀕死の日産を復活させたゴーン氏はかつて、「抽象的な考え方から戦略を生み出すフランス流と、綿密な実行力や品質管理に優れた日本流を融合させる」と語った。文化の違いを、むしろ強みとしてとらえる「したたかさ」が求められる。

 すごく重要な指摘です。オリンパスで解任された英国人社長は、他の記事によれば、オリンパス英国法人を成功させ、オリンパス全体の 4割を稼ぎ出した手腕が評価された結果、グループ全体の社長に抜擢されたそうです。

 社長に就任にしてからは、英語でコミュニケーションを行っていたものと思われますが、日本サイドとの意思疎通がうまくいかず、また組織運営のやり方が英国流と日本流とでは大きく異なるために、組織内でさまざまな軋轢(あつれき)を産んだようです。

 とくに、ダイレクトに現場にピンポイントで指示を出すやり方には、中抜きにされるポジションにある人たちから大きな反発があったようです。意志決定のスピードが重視されることがアタマでは理解できても、カラダが受け入れないという反発ですね。

 わたしが気になっているのは、それだけではなく、解任された英国人社長がどこまで企業グループ全体の MVV を理解し、みずからのうちに体現していたかということです。


「たとえすばらしいパフォーマンスを出しても、価値観の合わない人間には会社から去ってもらう」(ジャック・ウェルチ)

 米国の巨大企業 GE(ゼネラル・エレクトリック)社の "中興の祖" ジャック・ウェルチは、日本では「選択と集中」という側面ばかりが強調されてましたが、じつはこういうことも言っているのです。

 「たとえすばらしいパフォーマンスであっても、価値観の合わない人間には会社から去ってもらう」。だいたいこのような趣旨の発言だったと思います。

 ビジネススクールの教科書的存在である GE元CEOのコトバはよくかみしめる必要があるでしょう。

 MVVに表現された価値観を浸透させるためには、仕事のやり方や組織運営の仕方まで、突っ込んで考えなかればならない。経営者だけでなく、組織に属する個々人に共通認識ができあがっていなければ、うまくいかないのです。

 オリンパスの外国人社長解任劇には、そういう側面もあるのではないかと、わたしは捉えています。前社長は、どこまで会社の MVV を理解して体現していたのだろか、と。


コトバの壁を越えて MVV は共有できているか?

 解任された前社長に問題があると言いたいわけではありません。公平を期すために、日本の「経営理念」と英語の Corporate Philosophy に解釈のズレはなかったかどうか、あるいは英語人にも理解のできるものとなっているかどうかを見ておきましょう。

 オリンパスの「経営理念」のページには、英語のものも日本語のものも掲載されていますが、内容的にはそれほど大きなズレはなさそうです。

オリンパス:「経営理念」(日本語)
 「Value」:社会とともに未来を育む
 「経営理念」:企業と社会との関係を3つの「IN」で確立することを目指します-INvolvement, INsight, INspiration
 「コーポレートスローガン」:"Your Vision, Our Future"  人々の思い、願いをかなえるために。


Olympus Global: Corporate Philosophy
 「Value」:Working with Society to Develop a Better Future
 「Corporate Philosophy」:Realization of Social IN 
  We aim towards establishing firm ties with the society through the three IN's
  -INvolvement, INsight, INspiration
 「Corporate Slogan」:"Your Vision, Our Future" 
   Turning People's Ideas and Dreams into Reality


 内容的にはすばらしいものがありますが、ちょっと漠然としすぎているような気がしないでもありません。

 細かくみていくと、「経営理念」(コーポレート・フィロソフィー:Corporate Philosophy)には、「企業と社会との関係を3つの「IN」で確立することを目指します」として、日本語版でも英語版でも、In を接頭語にもつ3つの英単語が並んでいます。すなわち、INvolvement(巻き込み)、 INsight(洞察力)、INspiration(インスピレーション)ですね。

 どうやら、解任された前社長は、このINvolvement(巻き込み)ができなかったようですね。顧客についてはさておき、肝心要の自分の会社の社員を involve(巻き込む)ことができなかったわけです。

 フィロソフィー(哲学・思想)やスローガンがすばらしいものであっても、社員一人一人の言動にまで規定する行動指針にまでブレイクダウンし、具体的な指針にまで落とし込んだもののようには思われません。

 まずは経営トップが、身をもって示さねばならないものではないでしょうか。


経営理念や社是は MVV に分解すべし

 日本語の「社是」あるいは「経営理念」をかみくだいて英語に直す。しかし、日本語のニュアンスは英語では表現できない、英語になっていても英語人にはピンとこない、こういうことはけっこう多いのです。

 だから、わたしは、「経営理念」や「社是」は MVV に分解して、誰でも理解できるような形で表現することを提唱しています。

 MVV とは、ミッション(使命・使命感)、ビジョン(将来像)、バリュー(価値観)のこと。まずはこの3つに分解し、それぞれについて3項目ないしは多くても5項目に箇条書きにまとめることです。

 日本語人であっても英語人であっても理解を共通し、日本語と英語とのあいだの意味のズレをミニマムにするような文言を、徹底的に磨き上げることが必要となるのです。外国語にすることを前提に、最初から日本語を考え抜くのです。

 あたりさわりのない表現では、たとえ英語訳が日本語訳の忠実な翻訳であっても、英語人のアタマにもココロにも響いてきません。ましてや一挙手一投足で実行することなどまっったく期待できません。

 逆に考えれば、もとになっている日本語があいまいで、あたりさわりのない表現になっているのではないか、わかったつもりになりやすい表現ではないか、きびしく検証してみることが必要でしょう。

 みなさんの会社の「経営理念」や「社是」は、ただしく社員のあいだに共有されていますか? いま一度、問い直してみましょう。


<関連サイト>

オリンパス(日本法人サイト)
オリンパス(グローバルサイト 英語その他)


<ブログ内関連記事>

「ブレない軸」 (きょうのコトバ)

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!

Facebook Principle (フェイスブックの原則) を MVV (ミッション・ビジョン・バリュー) の観点からみてみよう

原点としての 「HPウェイ」 -創業者の理念は度重なる経営者の交代でも生き続けているのだろうか?

『グローバル仕事術-ニッポン式ビジネスを変える-』 (山本 昇、明治書院、2008) で知る、グローバル企業においての「ボス」とのつきあい方
・・英国のグローバル企業での勤務経験のある著者が語るボス(上司)とのつきあい方。英国流と日本流の違いがわかる本



P.S. 一ヶ月のあいだに社長が二人交代するなどオリンパスが揺れているが、第三者委員会を設置して調査を行うことになった。真相については第三者委員会の調査結果にまちたいが、この記事の趣旨はオリンパスの外国人社長「解任劇」そのものとは直接の関係はないことを、あらためて強調しておきたい。(2011年10月28日 追記)

P.S.2 2011年11月8日、オリンパスの問題は粉飾決算問題であることがあきらかになった。この点にかんしてはコーポレート・ガバナンス(企業統治)にかんする問題として、考える必要がある。コーポレート・ガバナンスが強調されるようになったのは、ちょうど1990年代であったことを考えると、なんともいえない気持ちになってくるのだが...(2011年11月9日 追記)





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2011年10月14日金曜日

本日(2011年10月14日)付けの日経産業新聞に弊社の広告が掲載されました


 本日(2011年10月14日)付けの『日経産業新聞』に、弊社ケン・マネジメントの広告が掲載されました。タイトルは「企業変革支援 国際化も視野にマネジメント」

 画像が小さくて見にくいかもしれませんので、紹介文を採録しておきます。紙面のコピーはこちらからも見ることができます。

ケン・マネジメントは、最も重要な経営資源である「ヒト」を重視し、個人個人に意識変革を促し、もてる能力を「引き出す」コンサルティングで、中堅中小企業の企業変革を支援している。コンサルファーム出身だが、日本とタイ王国での中小企業の経営体験をもとに、ハウツーを越えた実践的なアドバイスを展開。とくに東南アジアで国際展開する志向をもつ中堅中小企業の経営を全面的にバックアップしている。代表の佐藤けんいち氏は、机上の空論を提示するコンサルタントではなく、中小企業経営の世界にドップリと浸かった日々を過ごした実践派コンサルティングを受ける側の立場も十分に理解しており、「顧客中心」の基本原則と公立中正な立場から、経営者にとって頼りになる経営参謀となってくれるだろう。

 なんといっても、ヒトがもっとも大事な財産です。

 日本の経営の世界では、ヒト・モノ・カネ、それに情報をくわえて「経営資源」と呼んでいますが、わたしはこの順番がきわめて大きな意味をもっていると考えています。

 とくにヒト・モノ・カネという順番が重要です。ヒト・モノ・カネは、「経営情報」として並列されていますが、じつはヒトは、ヒト以外の「経営資源」とはまったく意味が異なります。

 ヒトがヒトを使い、ヒトがモノ(あるいはサービス)をつくり、そしてまた同じくヒトである顧客に販売し、ヒトがカネを集めて事業の成果としての利益を得るわけですね。情報もまたヒトがそれを意味あるものとして受け止めるといはじめて意味をもつのであって、情報自体が意味をもつわけではありません。情報のなかには、知識や知恵もふくめていいでしょう。

 つまりヒトは、モノ(あるいはサービス)とカネを使うともに、組織内のヒトを使い、組織外のステークホールダーであるヒトとかかわる存在なのです。

 ですから、何よりもまずヒトを重視しなければならない理由はきわめて明らかですね。

 企業もまた、ヒトが集まってつくった組織であり、あくまでも「ヒトの、ヒトによる、ヒトのための」存在でなければなりません。カネは組織の血液といった比喩的表現がされることも多いですが、ヒトがカネに振り回されるのは本末転倒です。

 カネに一人歩きさせてはいけませんね。あくまでもヒトが価値をつくりだし、おカネや商品を取り扱うのですから。

 このような考えのもと、ヒトに焦点をあわせた企業変革のお手伝いをさせていただいている次第です。

 また、国内市場の縮小にともなって、生き残りのためには海外展開も視野に入れている経営者の方々も多いと思います。

 わたしは、海外展開は新規事業ととらえています。しかも、とりわけむずかしい新規事業である、と。なぜなら、おなじ業種業態での海外進出であっても、国境を越えるとさまざまな問題が山のように発生してくるからです。法制度や租税制度の違い、文化の違いなど、きわめて多くの違いがあるのです。

 そしてまた海外展開は、国内の本社にも大きな影響を逆に及ぼしてくることになります。とりわけヒトの問題がきわめて大きなものがあります。個人の処遇や組織運営にかんしても。ひいては組織変革、企業変革にまで踏み込むこともまた必要となるのです。

 いずれにせよ、カギを握っているのはヒト。この点を最重視して取り組むことが重要なことは、国内であれ海外であれ同じなのです。

 なにかありましたら遠慮なくご相談ください。詳細な企業情報はウェブサイトをご覧ただけると幸いです。


   ウェブサイト www.kensatoken.com

フェイスブック・ページ「MVV (ミッション・ビジョン・バリュー)の3文字で、個人と組織にブレない軸とブランドをつくる!」: http://www.facebook.com/kensatoken.mgmt
   フェイスブック(個人ページ): http://www.facebook.com/kensatoken


<関連サイト>

2011年10月14日付けの『日経産業新聞』紙面のコピーはこちら




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2011年10月11日火曜日

原点としての 「HPウェイ」 -創業者の理念は度重なる経営者の交代でも生き続けているのだろうか?


 「HPウェイ」というものをご存じですか?

 HP とは、Hewlett Packard の頭文字をとったもの。ヒューレット と パッカードというスタンフォード大学の二人の学生が創業した、シリコンバレー草創期のハイテク企業です。ホームページのことではありませんよ(笑)

 HPウェイ(The HP Way)とは、その HP社の従業員を大事にする研究開発型企業としてのあり方を端的にしめした表現です。

 かつて「IBM ウェイ」「HONDAウェイ」などが、ビジネス界ではたいへんもてはやされました。1980年代に日本的経営がブームになった頃、 日本的経営の要(かなめ)は、経営風土に流れる創業者のフィロソフィーである、と。ウィリアム・オオウチの『セオリーZ』などの経営書が流行った時代のことです。

 この HP が最近は迷走を続けています。創業者の理念がすばらしかっただけに、最近の迷走ぶりが余計に目につきます。「ダイヤモンド・オンライン」の最新記事「繰り返されるトップ交代-HPと米ヤフーが陥った自己喪失の罠」から一部抜粋しておきましょう。 

HPが不幸だったのは、度重なるトップ交代ドラマによって、企業としての姿がすっかり見えなくなったことである。幅広くやっているが、特化したものが見えてこない。ことにここ数年は、企業としてのメッセージを社会に届けるための余裕がなかった。特に消費者向け商品において、これは決定的なマイナス材料だ。HPのトップにまず課されるのはリカバリー(回復)だろう。信頼の回復、ブランドの回復である。

 わたしが米国に留学した1990年代初頭は、「プリンターといえば HP」というのが「常識」でした。現在はもはや使われることはありませんが、OHPのプロジェクターも HP があたりまえ。そんな環境から帰国してから出版されたのが、『HPウェイ-シリコンバレーの夜明け-』(日本経済新聞社、1995)という本でした。

 この本を読んでさらに HPは、すばらしい会社だ(!)と感嘆したことが思い出されます。

 かつて IBM Way を賞賛された IBM も、低価格化する PC の急激な普及によって苦境に陥った後、経営コンサルタント出身の外部経営者によって、ソリューション・プロバイダーとして劇的に変身を遂げ復活しました。HP もハードからソフトへという IBM流の路線をとるかにみえた矢先の経営者交代です。

 創業時のベンチャーの志(こころざし)を、後継者がいかに維持発展させることができるかは、HPにおいてもきわめて困難な課題であったことを知ると、なにやら少しさびしい気持ちにさせられます。

 上記の単行本は、『HPウェイ-シリコンバレーの夜明け-』 (日経ビジネス人文庫、2000)として文庫化されましたが、 現在は単行本も文庫版も品切れです。「HPウェイ」はもはや死語になってしまったのかもしれません。

 「創業は易し守勢は難し」という故事成語がよくクチにされますが、創業者のカリスマの継承だけでなく、ミッションの継承もまたいかに困難であるかを痛感するものです。

 もちろん、創業もかならずしも容易なものではなりませんが、事業を継承発展させていくことはさらに難しいということなわけですね。

 たとえ「現場」がしっかりとしていたとしても、組織の骨格であるミッションが生きたものとして根付いていなければ、企業としての存続も難しいものがあるかもしれません。

 まずは「原点回帰」が必要なのではないか、そんなことを考えさせてくれる事例といっていいでしょう。



P.S. 『HPウェイ[増補版]』(デービッド・パッカード、ジム・コリンズ序文、依田卓巳訳、海と月社、2011)として再刊されているが、上記の感想についてはとくに変更する必要は感じません。
 すばらしい理念をもっていた HP社はもはや過去のもの。「経営史の教科書」に登場する歴史的事例としてなら、読む価値は大いにあるでしょう。いや、むしろよく読んで、自分が属する組織には大いに活かしてほしいと思います。





<関連サイト>

「HP Way」、それはHP全社員が、誇りとともに受け継ぐ理念。(日本HPのウェブサイト)


<ブログ内関連記事>

カリスマが去ったあとの後継者はイノベーティブな組織風土を維持できるか?-アップル社のスティーブ・ジョブズが経営の第一線から引退




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2011年10月7日金曜日

製品ブランドの転売-ヴィックス・ヴェポラップの持ち主は変わり続ける



 急激に寒くなったためか、不覚にも風邪を引いてしまった。

 鼻からのど、そしてのどから胸に降りてきて息苦しいが、日中は風邪薬は飲めないから、こんなときはこれに限る! ヴィックス・ヴェポラップ。塗る風邪薬。

 ドラッグストアで風邪薬のコーナーをさがしてようやく見つけた。「♫ ヴィ~ックス・ヴェポラップ」の節回しの CM ソングが耳に焼き付いている。アタマのなかでこの音楽を鳴らしながら、ドラッグストアで探していたのだ。

 さっそく買って持ち帰って、塗ってみる。匂いだけならタイガーバームとそれほど変わるわけではない。ふと箱に目をやったら、なんと「鷲のマークの大正製薬」 になっている。

 なんと、ヴィックス・ヴェポラップ(Vicks Vaporub)は買収されていたのか!

 だが、製品ブランドとしては生き残ったわけだ。これは、ブランド戦略の観点からいって、たいへん賢明な意志決定といえる。 

 ところが、大正製薬はヴィックス社(Vicks)から製品ブランドを直接購入したわけではないようだ。

 そんな話をフェイスブックでつぶやいてみたら、ヴィックス・ヴェポラップは P&G(=プロクター&ギャンブル)が買収したはずだったという指摘をもらった。

 さっそく調べてみたら、wikipedia の「日本ヴィックス」にはこんな記述があることがわかった。日本ヴィックスじたいは、いまはもう存在しない会社のようだ。

日本ヴィックス株式会社(非上場会社)は、かつて存在した日本法人の合弁企業で、アメリカの製薬会社・リチャードソン・ヴィックス社と日本の伊藤忠商事との共同で設立された医薬品会社。一般用医薬品(大衆薬)・健康食品専業。

沿革(抜粋)

1966年 ヴィックス製品を輸入販売していた阪急共栄物産(現・阪食)より分離・独立で設立。
1979年 日本ヴィックス株式会社に復名。
1985年 経営が悪化した米国リチャードソン・ヴィックス社に対してユニリーバがTOBによる買収を画策。この時、ユニリーバとの経営統合を嫌った経営陣がプロクター・アンド・ギャンブル (P&G) へ救済を求め、P&G傘下となる。
1988年 P&G傘下となっていた日本ヴィックスが社名を「プロクター・アンド・ギャンブル・ヘルスケア株式会社(呼称・P&Gヘルスケア)」に変更。
1994年 P&GヘルスケアはP&G傘下となったマックスファクター(現・P&Gマックスファクター合同会社)と合併し、「マックスファクター株式会社・P&Gヘルスケア事業部」に組織変更。
1997年 便秘薬「コーラック」の日本での事業を大正製薬へ譲渡
1998年 哺乳瓶消毒剤「ミルトン」の日本での事業を杏林製薬へ譲渡。
2000年 ニキビ治療薬「クレアラシル」の日本を含めた全世界の事業をブーツ・ヘルスケアへ譲渡。  
2002年 塗布風邪薬「ヴィックス ヴェポラッブ」、のど薬「ヴィックス コフドロップ」の日本での事業を大正製薬へ譲渡し、P&Gは日本での大衆薬事業から撤退した。
なお、日本以外のP&Gにおける大衆薬事業は「クレアラシル」を除いて引き続き行われている。

 そうだったのか!

 ヴィックスは、P&Gに身売りし、そして日本国内では、P&G はさらに、製品ブランドを大正製薬や杏林製薬などに切り売りしたというわけなのだ。

 だが、製品ブランドを事業ごと買収した大正製薬は、現在でもヴィックス・ヴェポラップのブランドは使用し続けている。日本以外での販売権はヴィックス本社などが所有しているようだ

 日本国内にかんしていうと、「♫ ヴィ~ックス・ヴェポラップ」の節回しは、日本人の耳にこびりついている。ブランドは、資産としては買収した企業が所有していても、ブランドそのものは、あくまでも顧客のアタマのなかに存在するものだからだ。

 だから、このブランドを捨てて、あえてあらたなブランド名をつけるのは無意味なことなのである。

 新たなブランドをゼロから立ち上げるよりも、既存のブランドを買収して、ランニングコストを支出しててブランドのメンテナンスにつとめるのであれば、そのほうが安くつくことは当然である。

 ただし、あたらなファン(=顧客)を開拓しなければ、いずれそのブランドは尻つぼみになっていく。今後は、ヴィックス・ヴェポラップも、追加投資によってテコ入れする必要もでてくることだろう。

 ファンとしては、このブランドがいつまでも生き続けてほしいものだと思う。顧客もまたブランドの持ち主なのである。





<関連サイト>

ヴィックス・ヴェポラップ(Vicks 本社のサイト)

ヴィックス・ヴェポラップ(大正製薬のウェブサイトの製品ブランドのページ)


<ブログ内関連記事>

「ブランド・ポートフォリオ」の組み替え-日立製作所 と LVMH にみる「選択と集中」

「風評被害」について-「原発事故」のため「日本ブランド」は大きく傷ついた






(2012年7月3日発売の拙著です)








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ケン・マネジメントのウェブサイトは
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ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
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禁無断転載!





end

2011年10月6日木曜日

巨星墜つ-アップル社のスティーブ・ジョブズ会長が死去 享年56歳 (1955 - 2011)


 アップル社の会長スティーブ・ジョブズ氏が亡くなりました。1955年生まれの享年56歳。がんを患って闘病中とのことでしたが、あまりにも若い死が惜しまれます。

 アップル製品の愛用者ではない私にとっても、スティーブ・ジョブズの存在はきわて大きなものでした。まさに文字通りのビジョネア(Visionaire :ビジョンを示す人)でした。

 ビジョンのもつチカラを信じ、万難を排して実行しぬいた人でした。

 パーソナル・コンピュータ(PC)のマッキントッシュで大きな成功をおさめながら、自ら立ち上げた会社の取締役会から追放されるという大きな挫折を体験しながら、そしてまたよみがえったジョブズ氏の姿に、自分を投影してしまう人も少なくないことでしょう。

 起業、企業再建、そしてさらなる企業成長を実現した経営者としても、きわめて非凡で、まさに文字通りのカリスマであったことは言うまでもありません。

 おそらく自らの死期を悟っていたためでしょう、BCP(=企業の事業継続)の観点から、着々と経営の引き継ぎを行ったスゴさもまたつよく感じています。経営者としても、人間としてもじつに大きな存在でした。

 ご冥福を祈ります。合掌。 



<関連サイト>

アップル社(米国本社)の公式サイト

Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005 (スタンフォード大学での卒業祝辞スピーチ動画 英語・字幕なし)。
 スピーチの英語原文はスタンフォード大学オフィシャルサイトに掲載。
・・ジョブズ氏の死生観も語られている

1984 Apple's Macintosh Commercial
・・若い人たちにとっては、なんといっても iPhone や iPad、あるいは iPod だろうが、わたしの世代ではマッキントッシュのほうがはるかにインパクトが大きかった。『ブレードランナー』の監督リドリー・スコットによる CM がインパクトが大きかった。ジョージ・オーウェルが描いたディスユートピア『1984』を踏まえたもの。その思想は、ジョン・レノンのPower to the People(人々にチカラを)に端的に表現される。

1983 Apple Keynote-The "1984" Ad Introduction
・・上記の TV・CM を発表した際のジョブズのキーノート・スピーチ。若々しく自信に充ち満ちた姿。巨人ゴリアテを前にした少年ダビデのようなものだろか


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2011年10月4日火曜日

アジアでは MBA がモノを言う!-これもまた「日本の常識は世界の非常識」


「MBAを持っていても、実際の経営はできない!」

このようにクチにする経営者は多いですね。皆さん自身もクチにされているのではありませんか? あるいは皆さんのまわりにも多いのではないですか?

このようにクチにする経営者、とくに中小企業の経営者は少なくないのですが、まったくそのとおりです(笑)。「異議なし」です。

なぜなら、MBA は「打ち出の小槌」でも、「魔法の杖」でもありません

そもそも MBA は大学院修了時に授与される「学位」であって、弁護士や公認会計士、税理士のような、それがなければ開業できないという「資格」ではありません。マネジメントには、資格はおろか学位も必要不可欠ではありません。必要条件ですらありませんね。

わたしもときどき、MBA は日本語のマヌケ(Manuke)・バカ(Baka)・アホ(Aho)をローマ字で書いたときの頭文字だ(笑)と言ったりもしますが、これはけっして自嘲ではなく、そういう人間も少なくないのは事実だからです。いわゆる「アタマでっかち」というヤツですね。ちょっと気の利いた表現なら「知ある無知」とでもなりましょうか。

正確にいうと、MBA とは Master of Business Administration の略。日本では経営学修士とよくいいますが、直訳すればビジネス管理学修士となります。Administration というのはやや古い概念で、ドラッカー以降であれば Management といったほうが適切かもしれません。

ところが、一歩でも日本をでると、様相はまったく変わってきます。日本から一歩でも出れば MBAの威力はきわめて大きいことはすぐにわかります

なにも欧州や米国といった先進国の話ではありませんよ。アジアの発展途上国でも MBA はじつにモノを言うのです!

アジアでは、マネージャークラス以上は、取得されて当然の学位なのです。MBAを含めたマスター(修士号)以上の学歴が資格要件のなかに入っているからです。

MBA をもてば、間違いなくリスペクトされます。しかも、米国や英国で取得したのであれば、それだけで羨望のまなざしを浴びることになるでしょう。

これは、中国やインドだけの話ではありません。わたしがタイで実体験したことです。

政治の世界では、元首相のタクシン氏も、その妹で現在の首相のインラック氏は MBA ではありませんが米国で修士号を取得してます。

日本人でも政府関係者や大企業の駐在員なら知っているでしょうが、ビジネスの世界では、日本以外の米国系や欧州系外資系企業のジェネラル・マネージャーは、ほぼ間違いなく、MBA やその他修士号を以上を取得した30歳代の若いジェネレーションです。

ものづくりにおいては、日本型の現場重視の経営はひじょうに大切です。タイをはじめとするアジアに日本型のものづくりが移植されて成功しているのは、その証拠といっていいでしょう。タイは、現在でもそうですが、もともとは稲作を中心にした農村社会です。

しかし、組織のなかでリダーシップを発揮すべきマネジメント・レベルになると話が違ってきます。MBA をはじめとする「学位」が、モノを言う社会なのです。日本以外はみなそうだと言っても言い過ぎではありません。

ですから、日本の外で仕事する必要のあるビジネスパーソンは、ダマされたと思って絶対に MBA 取得を目指してほしいと思うのです。

米国であれ、日本であれ、また中国や東南アジアであれ、フルタイムでもパートタイムでもいいから、ビジネススクール(経営大学院)を卒業して MBAを取得することはぜひ推奨したいと思うのです。

少なくとも、MBA を取得している人間はうまく使いこなしてほしいものです。

ハッキリ言っておきましょう。例外は日本だけです。かつて評論家の竹村健一は「日本の常識は世界の非常識」と断言していましたが、MBAという「学位」のもつ社会的な意味については、竹村健一の発言は、現在でもそのまま通用します。

かつて、「法学部はつぶしがきく」と日本のビジネス界では言われていました。

わたしは、「MBAは国際社会ではつぶしがきく」と言っておきたいと思います。なぜなら、ビジネススクール(経営大学院)で学ぶ「共通言語」は、世界中で通用するものだからです。

その「共通言語」とは、英語と数字、この2つです。この2つを同時に学ぶことのできる MBA が重宝されるのは、ある意味では当然といえば当然なわけですね。

もっと言ってしまえば「英語で数字を語る」というべきでしょうか。つまるところの最低限は英文会計を読み解く知識と能力。もちろん、それだけに限定されず、幅広く経営管理の基本ということになります。

「MBA は役にたたない」。はい、そういう者も多々あります。しかし、そういう者がすべてではありません。

日本語では「バカとハサミは使いよう」と言うではありませんか。
「MBA も使いよう」なのです。


<関連記事>

英語で交渉することで尊敬を勝ち取る-中国人の“欧米崇拝”を逆手に取る 
・・"中国でもっとも有名な日本人" 加藤嘉一さんの提言。「政府機関、大企業、中小企業を問わず、過去に欧米に留学した、駐在した経験がある従業員を積極的に中国(特に大都市)に派遣することをお勧めする」。なぜなら、「中国人とのビジネス交渉に英語を用いることのメリット」である。外国企業とビジネスをしようとする中国人がそもそも英語に堪能で、英語を話したくてたまらないというハングリー精神を持っている背後には、今を生きる中国人が持つ「欧米崇拝」が存在」から。(2011年10月27日 追記)

そこまでヒドイの? ケア・テーカーと呼ばれている日本人支社長たち
・・「日本以外の先進国やアジア諸国は、階級社会(Class Society)により成り立っている。ビジネス分野においては、MBAプロトコルと呼ばれる見えない壁を形成している。MBA資格の有無が重要なのではなく、「話が出来る相手かどうか、を見極める手段である」・・この指摘は重要。(2012年1月6日 追記)

Rouge Asia社長 前田知映氏(下)-アジアでこそ活きる米MBA資格 (日経Bizアカデミー 2014年3月24日)
・・「アジア市場でビジネスして思うのは、MBA留学をしておいてよかったということです。私が会ったアジアの企業の経営者や幹部はほぼ全員、海外留学の経験者です。インドネシアやタイで会ったビジネスパーソンの99%は、米国留学していました。その中にはビジネススクール出身者も大勢います



<ブログ内関連記事>

書評 『海外ビジネスを変える英文会計-経営の判断力が身につく!-』(木幡 幸弘、インテック・ジャパン監修、エヌ・エヌ・エー、2010)

M.B.A.(経営学修士)は「打ち出の小槌」でも「魔法の杖」でもない。そのココロは?

レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年
・・わたしはこの大学のMBAコース(MOT)を卒業しました

(2013年12月25日 情報追加)





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